可愛いプレゼント

*堂郁(夫婦)+手柴(夫婦)

柴崎から郁へのプレゼント。当然ただのプレゼントではありません。

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最近基地近くにできたイタリアンが評判との事で、郁は麻子と昼休みを合わせ、外ランチに来ていた。
評判通りなかなかのランチコースを満喫し食後のコーヒーを終えた頃、麻子がどこかのショップの紙袋をテーブルに置いた。

「こないだネットで可愛いの見つけてさぁ、思わず買っちゃったー。あんたにもあげる」
「いいの?ありがとー。これ何?服?」

紙袋を開けて中を覗くが、更にビニールに入っているらしく黒い布しか見えない。

「袋は別の店のだけどね。ルームウェアみたいなもんよ」
「ふーん家で来てみるね。いくらだった?」
「お金はいいわよ、そんな高いもんじゃないし」
「えー悪いから払うよー」
「別にいいわよーその代わり堂上教官の感想聞かせてね」

今まで麻子がそんな事を言い出した事はなく、郁は一抹の不安を感じる。

「え、いいけど……そんな変わった服なの?」
「変わってるっていうか、あんたが普段着ない感じだからどうなのかなーって思って。図書館に着てきて貰う訳にもいかないし」
「それはそうか、ルームウェアだもんねー、わかった。ありがと。」

先程の不安はすっかり忘れ、麻子のセンスがいいのは郁は元同居人としてよく知っているだけに、わざわざ自分の分まで買ってプレゼントしてくれたルームウェアとはどんなのだろうと終業後が待ち遠しくなってしまった。

堂上は残業で遅くなりそうだというので、先に官舎へと帰る。
朝干して出た洗濯物を取り入れ、カゴにまとめて放り込んだところで柴崎から貰った紙袋が目に入った。

先に見るだけ見ちゃおうかな。
先に用事を済ませてからと思っていたが、開けて見るだけならすぐだしと夕食の準備は置いて紙袋を開けた。

「ボアになってる、手触りいいなー」
ボリューム的にカットソーか何かかと思ったがビニールから出すと中味が二つに分かれ、その間からポトっと落ちたのは……

――カチューシャ?しかも耳……が付いてる……

残る二つの物体はボリューム的にはもはや服とは思えず、広げてみると、それぞれが幅広の輪っか状になっている。

明らかにルームウェアではない。
訳が分からず残るビニールをひっくり返してみると、そこにはブロンドに赤い唇でこちらに微笑む美女、その頭には目の前に転がるカチューシャ、そして辛うじて胸と腰を覆っている黒い布……

――何、コレ……いや、これが何かはさすがにあたしでも分かる、分かるけど!

誰に言うともなく一人ぶつぶつ呟きながら、郁はただであげる代わりにと麻子に言われた台詞を思い出した。

――その代わり、堂上教官の感想聞かせてね。

感想を聞かせろと言う事は即ち堂上にこの格好を見せろと言う事で、つまりそれは堂上の前でこの格好をしろと言う事かーー!!

確かに麻子はルームウェアみたいなもんという表現をして、ルームウェアとは言わなかった。
この格好で外歩いたら犯罪だし、着るのは当然室内だろうから室内着、イコールルームウェアと言えない事もない、ないけど、違う違う絶対何か間違ってる!!

何であの時もっと深読みしとかなかったんだと後悔しても時既に遅し、今更返すなど麻子が了承する筈もなく、かと言って報告を見逃してくれる訳もなく、郁は右手にビニール、左手にルームウェアもどきを握りしめ、暫くの間呆然としていた。

どれだけそうしていただろうか、放心状態の郁の耳にピンポーンと軽やかな電子音が飛び込んできた。

――ヤバい!篤さん帰ってきた!

こんなものを見られる訳にはいかない。
咄嗟に洗濯カゴの中につっこんで隠し、慌ててドアへと向かう。

「お帰りなさい、お疲れ様」
「出るの遅かったな、何してたんだ」
「えっいや……その……」
「うたた寝でもしてたのか」
「えっ、そ、そうです!急に眠くなっちゃって。ごめんなさい、ご飯まだできてないんです……」
「疲れてるんだろ、簡単なものでいい。作り置きの惣菜もあっただろう」
「じゃあちゃっちゃと用意しますね!」
「おい、疲れてるなら俺がやるから休んどけ」
「いえっ大丈夫です!篤さんはゆっくりしてて下さいっ」

嘘をついた気まずさと何とかごまかせた安堵感からさっさとキッチンに引き上げ夕食の準備に取り掛かる。
作り置きと残りもので体裁を整え、サラダと味噌汁だけは手早く作りダイニングに並べて、リビングで寛いでいるであろう夫を呼びにいった。

「郁、何だこれは」
堂上の傍らには洗濯カゴと三分の一ほど畳まれた洗濯物、そして手には先程上手く隠しおおせた筈の麻子からのプレゼント……

「何で篤さんがそれをっ」
「何でって、洗濯物を畳んでたら出てきただけだが」

慌てて食事の用意をしていて洗濯カゴの中味をすっかり忘れていた。
家事は分担するのが基本なので自分が料理をしていれば、堂上が洗濯物を畳んでおこうと考える事はごく自然だが、既にごまかせた気分になっていたので気にも止めなかったのだ。

「それで俺の質問には答えてくれるのか」
「それは、ですね……麻子、柴崎が……」

郁は観念して今日の昼に柴崎から貰った経緯を説明する。

「で、帰って開けてみたらそんなのでびっくりして」
「で俺に見られないよう洗濯カゴに隠してすっかり忘れたと言うわけか」
「はい……」

情けない事この上ない。
堂上は引いただろうか、郁の趣味で買ったのではない事は分かって貰えただろうが、と次の台詞を肩を竦めて待っていた。

「じゃあ飯にするか、せっかく用意してくれたのに冷めちまう」

予想外の言葉に郁が顔を上げると夫は振り返り満面の笑みで続けた。
「それを着るなら風呂に入ってからの方がいいだろ?」

「こっ……こんなの着れるわけないじゃない!」
一瞬そのまま話が終わるかと期待しただけに、反論しようにも口調が覚束ない。
しかも風呂の後って!

「せっかく貰ったんだ、俺しか見ないし着てみろ」

その俺に見られるのが恥ずかしいんじゃないっと思いつつ精一杯の抵抗を試みる。

「……篤さんにそんな趣味があったとは思いませんでした」
「俺も自分にそんな趣味があるとは思ってない」
「だったら何でっ」

お互いコスプレに興味はないハズだった。こんな格好下着より、ある意味ハダカより恥ずかしい。

「わざわざ調達してまで着せようとは思わんが、今目の前にあるんだ、見てみたいと思うのは男の性だ、どうしようもない」
「あたしみたいな戦闘職種大女が着ても似合わないし」
「そんな事はないだろう、それに惚れた女に着て貰うから意味があるんだ」

――ズルい、惚れた女とか言われたら……

「……どうしてもダメか」

甘い声で囁かれ、下から覗き込まれると弱い。

――ダメって言うか、恥ずかしいだけでどうしても嫌ってわけじゃ……

「そうか、それは良かった」
「へっ……まさかあたし……」
「あぁ、漏れてたぞ」

にっこり笑われたらもう郁に勝ち目はない。

「……電気消してくれますか」
「ああ、暗くして待ってるから着替えて入ってくりゃいい」

せっかく温めたのに半分冷めかけてしまったた食事はほとんど味がわからなかった。

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後日談、あります。