可愛いプレゼント〜明くる日

*堂郁(夫婦)+手柴(夫婦)
可愛いプレゼントの後日談です。

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次の日、郁はバディだった手塚に不審がられる程、体がガタガタだった。

「どうしたお前、寝不足か?」
「ちょっと……って何であんたそんなに普通なの?」

お揃いと聞いたから手塚だってあの姿の麻子を見たはずだ。なのに全くいつもと変わった様子はない。

「はぁ?お前、意味分かんねえ。普通で何が悪い」

「昨日の麻子、何ともなかったの?」
「麻子?何かあったか?……そういや、新しいルームウェア買ったってやたら機嫌良かったけど」

「そのルームウェアって……手塚は別にそういうの趣味じゃないワケ……」

堂上は男の性と言っていたが何とも思わない方が普通なんだろうか。やっぱり堂上にそういう嗜好があったのかと郁は溜息をつく。

「趣味って……まぁあいつにしては珍しいが、パーカに耳着いてるだけだろ?」
「パーカっ!?何だってえぇぇーー!麻子のやつーーっ!!」

――自分だけ普通のルームウェア?あたしにはあんなコスプレまがいの事させといてー!!
という叫びはギリギリ飲み込んだ。

「おまっ、直近で怒鳴んな頭いてぇーー、パーカがどうしたんだよ」
「ごめんっ、いや、何でもないっ。じゃっあたし休憩行ってくるからっ」
麻子の卑怯者ーっ見つけたらただじゃおかないーーっと血相を変えて走り去る郁の後ろ姿を手塚はただ見送るしかできなかった。
「何だあいつ……マジで訳分かんねぇ……」

呆気にとられてベンチに座り込んでいる手塚の後ろから堂上が近付き、声をかける。

「手塚、今いいか」
「堂上一正」

「昨日は何だ、その、お前の嫁さんがウチのに服をプレゼントしてくれたみたいで、よく似合ってたと礼言っといてくれ」

「服ってパーカですか?麻子も気に入って昨日早速着てましたけど」
「パーカ?……柴崎のやつ……」

またこの反応だ。あの単細胞の同期だけならともかく、尊敬する堂上一正もとなると気にならない訳がない。

「一体どうしたんですか?さっきか、堂上三正にもパーカって言ったらいきなり叫ばれて」
「あ、いや気にするな。」
「気にするなと言われましても……妻の事ですから」

妻がまた妙な策謀を始めたのか、それとも何か重大な問題でも起きたのか、確率からいって前者だろうと当たりをつける。

「まあそうだな、どう話したもんか……その、ウチのに貰ったやつの方が何というか、大分かわいらしかったからな……残念だったな、手塚」
「はあ……」

手塚は分かったような分からないような顔で曖昧に頷いた。

どうやら妻が元笠原、堂上三正に服らしきものをプレゼントしたらしい、ここまでは違いない。
麻子がパーカを来ていたと言ったら二人とも目を丸くしていたからそれとはまるで違うもの……恐らく同期にとってはありがたくなく、堂上一正にとっては可愛らしい……

だが堂上一正がいった残念だったなと言う一言が妙にひっかかる。パーカで残念と言う事は堂上家のモノの方が俺にとっては嬉しいと言う事か、堂上一正と俺、即ち男にとって嬉しい服関係のモノ……

――駄目だ、ここまでが限界だ。

一人で考えても埒が明かない、考えがすぐ顔に出る同期にカマでもかけた方が早かろうと姿を探す。
と、俯き加減で何やらぶつぶつ呟きながら目の前を通り過ぎる郁が見えたので小走りで近寄った。

――全く……こんな時に限って外出だなんて……お揃いって言ったくせに、麻子のヤツーっ。だいたいあんなコスプレなら自分の方がよっぽど似合うでしょうに、一人だけパーカなんて……

「カマかけるまでもなかった……」
「てっ、手塚っ……休憩まだだよね……?」
頭突きしそうな勢いで振り返った郁をギリギリで避け、間髪入れず突っ込む。

「あんなコスプレって何だ、麻子に似合うってどんなだ?」
「何あんたエスパー!?……ってまさか」

「どんだけダダ漏れなんだ、閲覧室ではやるなよ。特殊部隊が不審者通報されたら洒落にならない」
「誰が不審者だ!てか今のは聞かなかった事に……」
「どっから見ても不審者だったぞ。それより洗いざらい吐……いや、やっぱりいい」

こいつの事だ、聞き出すのは簡単だが、どうせ要らん事までボロボロ零して堂上一正との睦み事まで聞かされ、こっちがいたたまれない思いをするのは目に見えてる。

「なかった事にはできないが、これ以上は何も聞かない。その代わり一つだけ聞かせろ、麻子はお揃いで買ったと、そう言ったんだな」
「え?そうよ、あんたとお揃いって……だから同じのだと思ったのに自分はパーカであたしにはあんな、ギ」
「それ以上言うな!」

言わんこっちゃないと慌てて言葉を遮り、休憩を切り上げてさっさと警備に戻ろうとするとクックッと笑いをこらえる声が耳に入る。

「小牧一正!」
「あ、話は聞こえてないから安心して。ただ他人から見たら痴話喧嘩にしか見えないから……くくっ」

「「ありえません!」」
揃って全力で否定するが、そのシンクロ具合でますます上戸に入らせてしまったようだ。

「……あー苦しー……、でも一体何の話だったんだろうね、堂上?」
「知らん!」

隣で無関係を決め込むつもりだったらしい仏頂面の堂上が更に眉間の皺を深くする。

「そんな即答したら知ってるって言ってるようなもんだよ。酷いなぁー俺だけ除け者なんて。班内で陰湿なイジメがって投書でもしようかなぁ」
「するな!思ってもないくせに。業務外の事はお前には関係ない!」
「あ、プライベートで堂上夫妻と手塚が関係する話なんだ」

小牧が相手では自分達三人がかりでも到底敵うまい。
回避する方法はただ一つ、逃げる事だ。

「警備に戻ります!おい、行くぞ!」
「うんっ。では失礼しますっ」

まさかバディを置いて逃げる訳にもいかず、苦虫を噛み潰しまくった堂上とじゃあ俺達も戻ろうかー話は道中聞くから、とにこやかに宣言する小牧が残された。



「麻子、同期を弄るのもいい加減にしろよ」

夕食後、テレビを見ながらくつろぐ妻の隣に手塚は腰を降ろす。

「えー、何の事かしらぁ?」
「分かってんだろ、よく似合ってたと礼を言っといてくれ、だと」
「それだけ?意外と普通の感想ね」

こっちは大変だったというのに全く悪びれる様子もない。

「お前あいつに何やったんだ、おかげで俺は散々だったんだぞ」
「散々って、お疲れの郁にギャーギャー喚かれたあげく痴話喧嘩と間違われた事?」

サラっと見ていたかの様に言われ、郁が麻子を探しに行って見つからずに戻ってきたのを思い出した。

「おまっ……知っててわざと逃げたな!」
「ちょっと、人聞き悪いじゃない。郁とみんなの為を思ってよ?閲覧室で昨晩の情事を大声で叫ばれたら図書館の責任問題になるわよー」

確かに郁のあの剣幕では何を口走るか判ったもんじゃない。筋が通ってはいる。が、いつまでもやられっ放しじゃ情けないし、ここらが反論どきか。

「まぁ、俺も危うく詳細を語られる所だったしな」
「でしょ?」
「どこまでも計算ずくなのが麻子だからな、昨日のパーカもフェイクなんだろ?」

口元は笑ったままだが眉が僅かに上がる。正解だな。

「あるんだろ?自分の分も」
「さぁ?どうかしらね」

「あるさ。簡単な三段論法だ。一、あいつはお前が『お揃い』と言ったと言った。二、お前はあいつをひっかけはしても騙す事はしない。三、即ち昨日のパーカはフェイクでお揃いの物もちゃんと買ってある」

先手を取られて内心悔しいはずだが麻子はそんな様子をおくびにも出さず、にっこりと笑い、さすが光、正解よと手塚の頬を撫でた。

「なーんだ、バレちゃったのかー。つまんないから着るの止めよっかな」

その瞬間、顔が強張るのが自分でも分かった。

「お前、ホントいい性格してるよな」
「お褒めの言葉、ありがたく頂くわ」

全く、コイツには適わない。
たまには優位に立ちたいと思った罰が当たったのか。

妻の細い身体を抱きしめ耳元で囁く。

「麻子、頼むからそれだけは勘弁してくれ」
「そうね、光がイイコにしてたら考えてあげる」

厚い夫の胸板から顔を上げ、その唇を人差し指でなぞりながら微笑むと、その眉間に深い溝がくっきりと現れた。

――あたしを出し抜こうなんてまだまだ早いのよ。

「あいつで遊ぶなとは今更言わない。が、お前の夫とその上官に及ぶ影響も少しは考慮して遊んでくれないか」

やっぱりまだまだねという呟きは胸にしまって麻子はくすっと笑う。

「善処するわ」

――バカね、全部考慮した上で投下してるに決まってるでしょ。

それを言うと更に眉間の皺が増えそうだったので止めておいた。
でも愛しの上官殿とお揃いならかえって喜ぶのかしら?



翌朝、官舎を出て仕事へと急ぐ郁の背後から優雅な声が降ってきた。

「おはよう堂上三正」
「おっ……はよう麻子っ、朝からその満面の笑み……何かありましたでしょうか」

――こっ、こわっ……
美しい事この上ない微笑の筈なのに、何故か背筋が寒く、思わず敬語になる。

「よくも人を卑怯者呼ばわりした上にネタばらししてくれたわね」
「えっ、ごめん……ていうかネタばらし?」

昨日はただじゃ置かないと思っていたのに柴崎の凄い剣幕にこっちが謝ってしまう。

「お揃いって言ったでしょ?次の公休前まで隠しとくつもりだったのが台無しよ」
「そうだったんだ……あたしてっきり……」

「ま、詳しい報告聞きがてら、お詫びとしてこないだのイタリアン一番高いディナーで勘弁してあげるわ」

麻子はそれだけ言うと、郁の返事も聞かず美しい黒髪を靡かせ、颯爽と過ぎ去っていった。

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柴崎の分を郁とお揃いにするか、自分だけ普通にするか迷ったら凄く長くなりました。
強欲ですいません。
手塚の口調が気を抜くと堂上になります。プチ堂上だしいいのかな…