二人の年越し〜三年目〜

*堂郁(郁入隊三年目)

年越し小話その三

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「はぁ重た……買い過ぎたかも」

基地の最寄り駅のホームに降り立ち、両肩から下げた紙袋を一旦下ろして郁は肩をほぐす。



今年も例年通り年末年始は仕事で埋めたかったのだが、一班だけに負担を集中させる訳にはいかないという、郁にとってはとっても有り難くない気遣いで元旦と翌二日は休みとなったのだった。

しかし他の三人は近いからいつでも帰れると言ってはいたものの、日にちをずらして実家に帰ったとしても正月は家族と過ごしていない訳で、郁の事情を汲んで合わせていてくれたのかもしれないと今更ながら気付き、申し訳ない気持ちになる。

かと言って郁も実家に戻る気になるかと言うとそれは別問題で、県展で母親に本音をぶつけ父親と兄達が協力すると言ってくれてもまだ帰省するには時間が必要だ。

結局元旦は寮で寝正月、そして二日の初売りバーゲンに繰り出して大量に買物してしまったという訳だ。

三年目とは言え、階級もまだまだ下の郁の給料では思う存分服を買えるはずもなく、あらかじめチェックしておいた品をバーゲンで狙う事になる。

しかし今日はいつもの買物にはない緊張感があった。
目当ての洋服を買い込む事はもちろんだが、目的はもう一つ、堂上に誘われたカミツレのお茶を飲みに行く為の服、である。

柴崎にその話をした時はそれがデートじゃなくて何なのかと散々呆れられたが、郁としては断じてデートなんかではないと思っている。

――だって、デートってのは双方がそう思ってないと成り立たないし、あたしはともかく堂上教官はそんなつもりなくて、ただカミツレのお茶に興味があるだけで、たまたまあたしがお店を知ってたから……ただそれだけで、だから断じてデートなんかじゃないっ!よねぇやっぱり……

自分で出した結論に自分でへこまされ、買い込んだ紙袋に目をやる。

やっぱりあたしには似合わないかなぁ……

一緒に買物に行く度に柴崎が試着する女の子らしい服装に目を奪われる。と言ってもそんなにフリフリひらひらの女の子全開な格好をする訳ではなく、どちらかというと上品でキレイめな感じだ。
それでもさりげなくレースがついていたり、リボンをあしらっていたりとどこかに女の子要素が入っている。

「あんたも着てみれば良いのに、意外と似合うと思うわよ」と何度となく言われたが、試着すらできずに、結局形はシンプルでブルーやイエローなどキレイめの色を選ぶのが精一杯だ。

今回は思い切っていつもは柴崎に付き合うだけだったブランドの店に一人で入ってみた。
しかしふんわり髪を巻きまつげパッチリの可愛らしい女の子で溢れ返る店内で頭一つ飛び出た郁はものの数分と耐えられず逃げるように店を後にしたのだった。

やっぱり柴崎と一緒に来るべきだった、そうすれば付き添いのふりをして見ることが出来たのに、と悔やんでも後の祭り、そもそも柴崎にからかわれたくないが為にわざわざ金沢に帰省している間に一人で出張ってきたのだから。

せめてもの妥協点としていつもの店で精一杯女の子らしいデザインのものを見繕い、散々迷った挙句にいくつか買い、後は持ち合わせのもので何とかすることに落ち着いた。

初売りなので他にチェックしていたものも残っているものが多く、結局あれこれ買い込むうちに大荷物になってしまったのだった。



もうちょっとだからと気合を入れて荷物を担ぎ直し、改札を出ると十メートル程前方に見知った後姿を見かけた。
飲み会などではいつも手ぶらなのに珍しく小さなバッグを提げているから、実家に帰省して戻ってきたところなのだろうか。

走って追いつこうかと思ったが、大量の紙袋が邪魔で上手く走れず呼び止めることにした。

「堂上教官!!」

ぎょっとした顔で振り返った堂上に郁の方がびっくりしたが、堂上はその勢いのままダッシュで郁に駆け寄り新年最初の盛大な拳骨を落とした。

「いった!何で名前呼んだだけで殴られなきゃならないんですか」
「バカでかい声で役職付きで呼ぶな!周りが何事かと思うだろう。」

確かに少ないものの周りと行く人がチラチラと郁と堂上を遠巻きに見ている。
小声ですみませんと謝ると、分かればいいと拳を落としたところをポンポンと叩いてくれた。

「実家に帰ってたんですか」

気を取り直して郁が尋ねると、堂上はせっかくだからなと照れたように頷いた。

「お前はまたえらい荷物だな。買物か」
「バーゲン行ったんですけど買い過ぎちゃって」

両肩の紙袋を持ち上げて見せると、女の買物は凄いなと苦笑する。

「貸せ、半分持ってやる」
「えっいいですよ、このくらい持てます」

鍛えてますからと強がったが、先程追いかけなかった事で既に覚られているようだ。

「ウチの妹もバーゲン行ってるみたいでな、荷物持ちに借り出されそうだったから早々に退散してきた」

いいから貸せと手を伸ばす堂上に素直に好意に甘えることにした。
肩に掛けた紐を取る際に郁の二の腕に堂上の指が軽く触れる。

思わずピクッと反応してしまい、堂上はすまんと低く呟いて、郁の右肩にかかっていた紙袋をまとめて自分の肩に背負い少し先を歩き出した。

「すっすいません、重くないですか」

慌てて後を追うと振り返って急ぐなと足を緩めてくれた。
先程堂上が触れた所がほんのりと熱を帯びて心臓のドキドキが止まらない。

「大して重くはないがそれにしても凄い量だな、これ全部服か」
「えっ、はい……その、買い過ぎちゃって」

まさかあなたとお茶を飲みに行く為の服を買いに行ってましたなんて口が裂けても言えない。
ごにょごにょとごまかして、堂上の斜め後ろをついて歩く。

雑談しながら数分歩いたところでふと、堂上が足を止めて郁を振り返った。

「そういや言ってなかったな、明けましておめでとう」

出会った時の拳骨からお互いうっかり年明けの挨拶を忘れていたようだ。

「あっホントですね……明けましておめでとうございます。今年も宜しくお願いします」
「こちらこそ宜しくな」

今更だが道路の真ん中で恭しく新年の挨拶を交わす。

「お前初詣行ったか?」
「いえ、まだです。昨日はずっと寮でゴロゴロしてて」
「たまの休みだからそんなのもいいだろ。もうちょっと行ったところを奥に入った所に神社があるんだが行ってみるか?」

図書隊へ入隊してからもう三年近くになるが近くに神社があるとは郁は聞いたことがない。
外へ哨戒へ出る時も目にしたことはなかった。

「そんな所に神社があるんですか?全然知りませんでした」
「その辺は外回りでも通らんからな、小牧に教えてもらった」
「小牧教官は地元ですもんね。行ってみたいです」

年末年始はわざとシフトを入れて実家へ帰っていない郁は、当然初詣も余り行っていない。
ちょっと寄り道して神社へ初詣に行くという堂上の案に賛成してそのまま向かう事になった。
本音は少しでも長い時間堂上といたいと思ったのは心の底にしまっておく。



業務明け早々に堂上が郁を連れて実家に挨拶に行き、ショッピングデートをして戻ってきたという噂が基地中に広まる事となる。

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終わりです。

カミツレデートまでもう少し。
周りから見たらバレバレ状態の二人はこんな感じだったんでしょうか…