オトメ奮戦記―後編―

*堂郁(婚約中)

婚約中の郁ちゃん&堂上教官のバレンタイン話後編です。

未読の方は前編からどうぞ。

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柴崎に叩き出されるようにしてジャージにコートを引っ掛け部屋を出た郁が共用スペースに到着すると、待ち受けていたらしい堂上が立ち上がるのが見えた。
手にはマフラーを入れたラッピング袋、着用してくれていない事に嫌な予感がつのる。

「悪いな、こんな格好で」
「いえ、あたしもジャージなんで」

平常心を保とうとはするが、顔が上げられない。ここでは話がしにくいと堂上に促されて人目を避け、官舎裏へと向かう。

「改めて礼を言おうと思ってな、ありがとう」
「いえ、たいしたものじゃないですし」

下を向いたままぼそぼそと答える郁に、堂上はマフラーを袋から取り出して二つ折りの状態で差し出す。

「で、これタグが見当たらないんだが……もしかして郁の手編みか?」

――突き返された!?そっかそうなるよね……

完全に打ちのめされた郁は、はいと小さな声で呟いて縮こまる。

「やっぱりこんなヘタクソなのじゃ着けられないですよね、分かってます。何ならいっそのこと処分して下さい!」

失礼しますと踵を返そうとする郁を堂上が慌てて「おい、待て」と引き止める。しかし郁はもう顔を向けられず一刻も早く立ち去りたい。

「いえあたしは気にしませんから、むしろ変なの押し付けてすみません!」
「話は最後まで聞け、郁!」

「でも」
「お前、その一人で早合点して話を畳む癖はどうにかならんのか」

痛い所を突かれ郁はうっと言葉に詰まり、足を止めた。

婚約前に部屋を借りる話で大モメしたのはまだ記憶に新しい。
それから人の話は最後まで聞け!と散々約束させられたが、勘違いして逃げ出そうとするのはなかなか直らない。

萎れて堂上の元へ戻ると手が優しく頭の上に乗った。

「誰もヘタクソとも変だとも言ってないだろ、むしろ嬉しいぞ」
「でも編物なんて初めてで上手くできなかったし」
「そんなことあるか、中々編み目も揃ってる。編物の事は俺もよくわからんが、初めてにしては上出来なんじゃないのか」

「じゃあ何で突き返すようなこと」
「突き返しなんかするか!その、何だ……せっかくだからお前に巻いて貰おうと思ってな。誤解させたのは悪かった」

ちょっと眉をひそめて謝る堂上に郁は今回もまた自分の勘違いだったことを知って、顔が熱くなる。

「教官が謝ることないです。あたしが勝手に勘違いしただけで」
「いや、俺もきちんと言うべきだった」

すまんと堂上は郁の背中に腕を回して引き寄せた。
「巻いてくれ」と改めて言われ、郁はマフラーを受け取り堂上の首に巻く。

「ありがとう郁、嬉しい」

耳元に口を寄せて囁かれ、郁はようやく自分の悪い予感が杞憂に終わったことを実感して、堂上の胸板に頭を預けた。



「なぁ郁、ひとつ質問してもいいか?」
「……何ですか?」

思いの外長い時間を過ごしてしまい、慌て気味に帰ろうとするのを堂上の声が引き留める。

「このマフラー、暖かくていいんだが……かなり重いんじゃないか?」
「そっそれは……」

まさかそんな所を突っ込まれるとは夢にも思わず、郁はいいだけ動揺した。

確かにそのマフラーは通常のものに比べて幅が狭く物凄く重い。
それはひとえに郁の馬鹿力のせいだ。

腕に力が入り過ぎているのか、加減したつもりでも編み目がぎっちりと詰まってしまう。柴崎に何度言われても直らず、その方が編み目が安定しているからとそのままで行くことにしたのだった。
当然幅は細くなり長さは足りないので編み足し、本で指示されていたのよりも五割増しの毛糸が使われている。重いのはその為だ。

と情けない事の顛末を一通り堂上に説明するハメになり、いいトコ見せたままで終わりたかったのにと、気落ちした郁だった。



「ただいまぁ」
「お帰り。教官には喜んで貰えたみたいねぇ」

部屋に入るなり柴崎にさくっと突っ込まれ、郁は動揺した。

「……まだ何にも言ってないんだけど?」
「言わなくても判るわよー。ま、マフラーのお返しにドコでナニされたか、逐一聞いて欲しいなら聞いてあげなくもないけど?」

取り繕う余裕もなく真っ赤になる。バレバレのようだ。
堂上に呼び出され向かった官舎裏で、誤解が解けたのは良かったのだが、堂上の口付けがいつもより激しく、少しは手加減してくれという郁の願いも全く聞き入れられず、散々に翻弄されたのだった。

いつも不思議なのだが、郁が堂上と会って帰ってきた時にケンカしたのかうまくいっているのか何も言わなくても手に取るように判るらしい。
何度聞いてもその訳は教えてくれず、結局自分にお鉢が回るだけなので、郁は柴崎だからと勝手に納得してさっさと退散することにした。

「先寝るね」とベッドに転がり込み、堂上におやすみなさいのメールを打つ。
送信済みの表示を確認して携帯を閉じ、枕の脇に置いた。

その動きに合わせてふわりと舞ったのは白い毛糸でできた小さな編みぐるみだ。

細かい花びらにぐるりと囲まれ、黄色の中心はドーム状に盛り上がっている。知らない人間ならガーベラかマーガレットかと思うかも知れない。だが、図書隊の人間なら間違えようのない、カミツレの花が三つ。

柴崎がほとんど毎日郁の編物に付き合ってくれたおかげで、バレンタインの数日前にはプレゼントを完成させる事ができた。
それで約束の報酬であるランチに出掛けた際に柴崎がくれたものだ。

柴崎に指導を請う前に散々失敗してボロボロになった毛糸を使って編んでいたものはこれだったのだ。
鈎針を借りた同期が余った毛糸もくれたからとついでのように言っていたが、使えなくなった糸をせっかくここまで一人で頑張ったのにと、捨てられなかった郁の気持ちも分かっていたのだろう。

――何だか今日はいい夢見られそう。

そんな事を考えながら久しぶりに緊張から解放されたせいか、郁は早々と眠りに落ちて行った。

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終わりです。

オトメな郁ちゃんなら手編みもアリかなーと。今は手編みとかしないんでしょうかね?

おまけ話、あります。