オトメ奮戦記―おまけ―

*堂郁+プチ手柴

郁&堂上教官(婚約中)バレンタイン話のおまけ。
登場人物は郁と手塚のみ、短めです。

未読の方は前編からどうぞ。

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バレンタインにプレゼントしたマフラーを堂上は毎日通勤時に着けてくれた。
堂上は上出来と言ってくれたものの、手編みであるのは誰の目にも明らかで、着用し出したタイミングからバレンタインのプレゼントであるのも明らかで、それが郁からだということも自明の理だ。

始め三日程は特殊部隊の全員から余すところなくからかわれていたが、一週間経った今は、日に一人二人入れ代わりで冷やかしの言葉を投げられる程度だ。
対する郁もからかわれはするものの、「まさか笠原が編物できるとはな」「意外と女らしい事もできるんじゃないか」等、見直したという声が多く、少し堂上に申し訳ない気もしている。



その日はたまたま早く目覚め、いつもより随分早めに出勤した郁は、廊下を特殊部隊の事務室へ向かう折りに見知った同期の背中を見つけた。

「おっはよー、てづー……」

声を掛けようとして視線が手塚の首元に吸い寄せられる。

妙に既視感のある色合い、白と紺などありふれたカラーリングだが自分は毎日見続けたのだ、見間違うはずがない。

「うわっ、何だ笠原か」

思わず手塚の肩を引っつかんで振り向かせ、反対側も見て確信した。
これは紛れも無く柴崎の編んだマフラーだ。

郁の使う毛糸玉の兼合いで堂上のものとは色の取り合わせが逆になり、片方の端は郁と同じくツートンのボーダーでアクセントを付けているが、もう片方は郁が予定を大幅に超す量の毛糸玉を消費してしまった為、貰い物の毛糸をつぎはぎしてマルチカラーとなっている。
加えてただ同じ編み方を繰り返すだけだった郁とは違い、全体にアランニットのような縄編みを施してあり、既製品に勝るとも劣らない仕上がりだ。

できるなら自分が買いたいくらいだったのをぐっと堪えてひそかにその行方を気にしていたのだ。

いきなり朝から引っつかまれた手塚は仏頂面全開で抗議しかけたが、郁の視線の先に気付き、慌てて郁を廊下の隅に引っ張っていった。

「手塚、コレ――」
「言うなよ!」

言われなくとも言い降らす気など毛頭なかったが、あまりの手塚の剣幕に郁はこくこくと頷くのみだ。

「よ、ご両人!朝っぱらから喧嘩か?」と通りすがりの先輩に茶化されて、手塚ははっと気付いた様子で「絶対言うなよ」と改めて郁に釘を刺し、そそくさと事務室へ消えて行った。

郁が事務室の自分の席に着くと、隣の手塚は既にマフラーを外していたがそれでも気になってチラチラと見てしまい、睨み返される。
仕方なく自分の机に視線を戻すとマフラーの行先を一度だけ柴崎に尋ねたことがあったのを思い出した。

「誰かにあげないの?」
「相手いないしねー」

思わず手塚は?と聞きそうになったが、それより先に「売れるなら考えてもいいけど」との柴崎の言葉にがっくりきてしまった。
「高値で売れたらあんたにも還元してあげるから」とにっこり微笑まれたが、柴崎が茶化しに入ったらもう踏み込むなというサインなので郁も「せっかく編んだのにねー」とそれ以上追及はしなかった。

そんなやりとりをぼんやりと頭に浮かべていると、ふと思い付いた事があって郁は手塚の方を窺ったが、手塚はもう郁の視線には無視を決め込むことに決めたようでさっさと業務を始めていたので、その疑問は頭の隅にしまい込まれ、そのまま忘却の彼方へ沈んでいくこととなる。

――手塚、買ったの?



その後、郁は誰にもその事は言わなかったが、余りにも出来が良過ぎて誰ひとりとして手編みだとは気付くことはなかった。もちろん堂上と色違いだと言うことも。

デザインの違う両端も、手塚の見場がいいせいか柴崎のセンスのなせる技か逆にお洒落に見えたらしく、どこのブランドか聞かれ手塚が返答に困っていた程だった。

――なんか、いいなぁ。

行き帰りに手塚を見かける度、自分が買わなくて良かったと思う半面、ちょっと悔しく思う郁であった。

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終わりです。