正夢かも知れない

*堂郁(郁入隊前)

郁入隊前の堂上教官のお話。
ギャグです。

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「堂上三正!」
「……あぁ、君か」

数年前の階級で呼ばれ、堂上が振り返ると、昔、書店で遭遇したあの女子高生だった。あの事件からあまり顔は変わっていないが、雰囲気が幾分か大人びたようだ。

「あたし、あなたを追いかけて図書隊に入ったんです」
「そうか」

澄んだ瞳でまっすぐ堂上を見つめ、そう続ける。
自分が彼女の人生を変えてしまったかも知れない、それについては少し複雑な気もするが、彼女自身の決めた事だ、そう思うことにしていた。

「あたし、あなたを目標にして……あなたみたいになる為に……努力してこんだけ鍛えました!!今なら良化隊もぶっ飛ばしてみせます!」

いきなり彼女は右腕を高く掲げて腕を曲げて見せた。
上腕にはみるみる筋肉が盛り上がり、いつの間にか全身がムキムキの筋骨隆々としたボディービルダーの様に変化し、はち切れそうな筋肉は服を破らんばかりだ。

それはそう、まるで――玄田隊長のような……



身体を真っ二つに折り曲げる勢いで堂上は跳び起き、そこが自室のベッドであることを確認し大きく息をついた。
まだ冬の寒さが少し和らいだ程度だというのに、寝汗で布団が湿っている。うなされていたに違いない。

時計を見ると五時過ぎ、もう寝られないだろうなとひとりごちた。


――今年は一段と強烈だったな。

茨城の書店で見計らい権限を使ってから、毎年この時期になると彼女の夢を見る。

哨戒中などに目にする真新しいスーツ姿に新卒隊員が入ってくるのが近いのを連想させられるからだろうか。

夢の内容は毎年さまざまだ。

あの時の高校生が図書隊に入ってくる、という設定はデフォルトだが、その先の展開は違っている。
想いをうち明けられたり逆に幻滅されたり、とても人には言えないような内容の時もあった。

その時々の心的情況に左右されているのかも知れない。
だが、今年のような夢は初めてだった。

――あんのクソ隊長が要らんことを言い出すから……

堂上の脳裏に蘇ったのはほんの数日前、特殊部隊隊長であるところの玄田とのやり取りだった。



終業後の雑談で次年度の新隊員の話になり、主に防衛部希望者の面接を受け持った玄田が所感をひとしきり述べた後、一番下っ端の二人に向かってにやりと笑った。

「堂上、小牧、お前ら来年は教育隊受け持つ事になっとるから採用試験の面接にも出るんだぞ。例の女子高生が来たら即採用だからこっそり教えろよ!!」

本気とも冗談ともつかないいつもの玄田の軽い口調に堂上はこめかみに手を当てた。

「私情を挟むつもりはありません。それに四年も前の事なんざ向こうは覚えちゃいないでしょう」

特殊部隊に配属されてからの玄田との付き合いはまだ数年だが、真面目に反論するだけ無駄だとすでに身に染みている。
さっさと切り上げて話を変えたが、小牧が席まで着いてきて堂上に小声で囁いた。

「向こうは覚えちゃいないって、自分はきっちり覚えてるって言ったも同然だって分かってる?」

まぁあの人達はそこまで深読みしちゃいないから大丈夫だと思うけどねーと含み笑いを浮かべつつ帰り支度を始めた小牧の背中に、だったらお前もいちいち言わんでくれと恨みがましい視線を投げる。

玄田が隊長室に引っ込む間際に「見込みが有りそうなら特殊部隊に引っ張ってもいいぞ!」と投げかけ、特殊部隊の面々も便乗して散々囃し立てるのに耐え切れず、堂上はそそくさと事務室を後にしたのだった。



そんな出来事を一通り思い出し、夢の内容も合わせて改めてげんなりしたが、どうせもう寝られないのなら、先日居心地が悪くて事務室を早く出た際に後回しにした仕事を片してしまうかと、身支度を始めた堂上だった。


数ヶ月後、半ば正夢という形で、半ば誰もが思いも寄らなかった形で、件の彼女が現れることとは当然夢にも思っていない。

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終わりです。