捕物を終えて

*堂郁

革命エピローグ後
タスクフォース恒例となった囮作戦の後で…

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「女だからってなめてんじゃないわよっ!」

ドォンと図書館の床を揺るがす小気味良い音と共に犯人が床へと叩き付けられると、あちこちからきゃあっと黄色い嬌声が上がった。

手錠をかけた犯人を控えていた防衛員に引き渡し、郁は玄田と堂上班の元へ向かおうとするが、遠巻きに事態を見守っていた館員や防衛部員にあっという間に取り巻かれ次々とスポーツドリンクやらタオルやらを差し出される。

「堂上三正、お疲れ様でしたぁーー」
「コレ使って下さいっ」
「今日のお衣装もステキでした!」

差し入れを手に熱い視線を送るのは全員が女性だ。郁は「ありがと」とだけ言って受け取らずに、人込みをすり抜けて奥へと進んでいく。
もう少しで堂上の所へたどり着くという距離まで来て、目の前にスポーツタオルと手製のドリンクを掲げたのは安達だった。

「お疲れ様でした堂上教官っ。いつもながらお見事ですぅっ!!」

語尾にハートマークが三つほど付いていそうな声色でにっこり微笑まれ、郁は一瞬気圧されたが礼を言って差し入れは断った。

周りのファン達と安達の残念そうな顔に少し申し訳ない思いもするが、気を取り直して堂上に向かい、報告を終える。

「堂上三正犯人確保、防衛部に引き渡しの上、只今戻りました」
「ああ、よくやった」

褒める口調とは反対に、堂上の眉間にはしっかりと皺が寄ったままである。
疑問に思った郁が口を開いたが、陣営の最後方で控えていた玄田からお呼びがかかる。

「おい堂上嫁!!今日もなかなかの釣り上げっぷりだったな」

事後処理のざわつきを吹き飛ばすような大声で豪快に笑う玄田のところへ向かう為、郁はまた人だかりへと突っ込んでいった。


「さすが笠原さん、ファンのあしらいも堂に入ってるね」

隊長に呼ばれた郁の背中を苦々しい顔で眺めている堂上の横から小牧がそっと囁く。

そんな事は言われなくとも分かっていると言えば余計小牧を喜ばせるのは目に見えているので何も言わないが、安達の「あぁっ、ファンに分け隔てしない所も素敵ぃ!」と言う台詞と口々に賛同する周りの高い声につい身体が傾ぐ。

郁が堂上と付き合い出してから日々可愛らしさを増すのに従って、周りの男どもが五月蝿くなった。強引に牽制をかけてはいたものの、半ば焦るように結婚に持ち込んだ感も否めない。

これで基地内で郁を狙う輩は一掃されたものの、入れ替わるように女性ファンが急増した。
当の本人は学生時代からあった事だからと気にも留めていないが、憧れの域を超えるような熱烈な者もいて内心穏やかではない。

愛しい妻であり、入隊時から育ててきた部下でもある郁がたくさんの隊員に憧れ慕われるのは喜ばしい事であるはずなのにと、自らの狭量を真剣に悩んだ事すらある。

そんな心境を押し殺して「さっさと着替えて来い!」とまだ何か言いたげにこちらを見ている小牧を追い払った。


玄田の元へ行くや否や、今日も見事な一本釣りだったと痛い程に肩を叩かれ、郁は片手で叩かれた肩をさすりながらもう片方の手をミニスカートの裾にやる。

すでに入隊から十年近く経っており、流石に女子大生風は厳しいので最近はOL風にシフトしているが私服では全く縁のない丈のスカートにはいつまで経っても慣れない。

「あのー、さすがにあたしにはもう餌はムリだと思うんですけど」
「何を言っとる、現にきっちり釣っとるだろうが」

今までにも幾度となく囮役の交代を申し出たものの、毎回即座に却下されている。
今回も餌を降りたきゃとっとと後継者を育てるこったとにべもなく言われ、郁は渋面を引っ提げて隊長の側を離れた。


「笠原、着替えて日報出したら上がっていいからな」
「はい」

再び堂上の元へ戻るなりそう言われ、郁は復唱ののち足を更衣室へと向ける。
終業時刻間際の作戦だった為当然の流れだが、プライベートでは夫、職場では上官である堂上の声が少し硬いような気がした。

自分に何か不手際でもあっただろうか、それとも確保した現行犯に問題でもあったのか。

訝しがりつつもここで聞くのは公私混同であるような気がして、夕食の時にでも聞こうと思い、その場を離れた郁だった。


しかし結局その本当の理由を知ることはできず、夕食時にも、その後にもいつもとは少し違う堂上の様子に戸惑いながら、郁は一日を終えることになるのだった。

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終わりです。

結婚してもモテる郁ちゃん、心中穏やかではない堂上さん、でも女性ファンにまで目くじら立てる訳にもいかず…といった感じでしょうか。