初めてじゃない初めての道

*堂郁(別冊1後)

堂上家にて
新婚旅行帰りのひとコマです。

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もう幾度となく往復した駅からの道のりだが今までとは違う緊張感が郁にはあった。

堂上の恋人として突然訪れる事となったのを始まりに、この道を歩く時はたいてい手を繋いでいたのが今回は両手いっぱいの紙袋がそうさせてくれない。

それほど長くはなかった新婚旅行から戻って初めの公休日、挨拶を兼ねてお土産を渡しに行くと連絡はしてある。

ということは新しい姓を受けて初めて、すなわち堂上郁になって初めて堂上家を訪れるのであり、ということは堂上家の嫁として初めての実家訪問であり、失態は見せられないと初回早々に見せた失態は棚に上げて緊張しているという訳である。

門を過ぎ前を歩く夫に続いてドアをくぐろうとしたが、いつの間にか立ち止まっていた堂上に危うくぶつかりそうになり、慌てて立ち止まった。

「篤さん?」

郁の問い掛けにも堂上は無言で、訝った郁が肩の上から玄関を覗くと、相変わらず静かではなさそうな静佳がそそくさと框に膝をつき、三つ指をついている。

「お待ちしてました、オ・ネ・エ・サ・マ」

深々と頭を下げた後にゆっくりと新婚夫婦を見上げ、漫画ならハートマークがしっかり三つはついたことであろう静佳のセリフに郁は荷物を取り落としそうになる程たじろいでしまう。

「お、義姉様って、静佳さんやめて下さいっ。あたしの方が年下なんだし」
「いえいえ晴れてウチの兄と結婚されたんですから。義姉様と呼ぶのが当然ですゥ」

今まではずっと「郁ちゃん」と呼ばれていたし、静佳の表情からもからかわれているのは一目瞭然だが、それでも郁がしれっと切り替えすにはハードルが高過ぎる。
あれやこれやと悪い事をした子供の言い訳のようなセリフを並べては静佳に遣り込められ、もはや言葉にならないようなセリフをもごもごと繰り返すのみだ。

「ホントにやめて下さいってば」
「もう御姉様ったら、義妹としては当然のことですからぁ」
「いやでも…」

「なら俺に対する呼称もこの機会に改めて貰いたいもんだがな」
「あら、お望みならそうしますわ、オニイサマぁ」

ノックアウト寸前の郁に助け舟を出したつもりだったのか、それまで無言だった堂上が口を開いたが、先程の郁への言葉よりもさらに輪をかけて甘ったるい口調で言われ、ぐっと押し黙った末に一言しか発することができなかった。

「……遠慮しとく」

そして奥のドアからはいつぞやと同じ光景だが、義親となった二人の笑顔が待ち受けていたのだった。


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終わりです。

堂上家では静佳さん最強ですよね、やっぱり。