班内集中訓練

*堂郁(戦争くらい)

まだまだいがみ合ってる頃の二人です。

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「貴様何度言えばわかるんだ!腕で持ってくな、腰を使え腰を!」

終業後がらんとした道場に堂上の檄が飛ぶ。
もちろん訓練中などではなく堂上と郁、小牧と手塚が組んでいるのみだ。

郁が隙だらけの堂上の襟をつかんで投げの体勢に入るが、疲れが足にきたらしく、そのまま堂上ごとその場に潰れてしまう。

「アホか貴様!いつまでもバネとスピードに頼るから疲れると投げられなくなるんだ。重心を意識しろ!」

立ち上がり様を堂上にあっさり払われて郁は畳に転がる。下から悔し紛れに睨みつけると冷ややかな視線が郁を見下ろした。

「どうした限界か、なら今日は止めておくか」
「誰が限界だっ、まだまだあっ」

勢いよくつかみかかったものの、ほぼノーガードだというのに堂上をなかなか投げられず苦心する郁の横で小牧と手塚は淡々と乱取りを繰り返していた。



手塚とともに特殊部隊に配属されてから間もなく、そう多くはないが特殊部隊のみでの柔道の訓練が何度かあった。
全てに秀でたえり選りのエリート集団、それだけに教育隊で同期の男達を相手にしていたようにはいかないのは当然わかっていた。だがその差は郁が想像していたよりもずっと大きく、ほとんどの隊員に全く歯が立たない状況だ。

手塚も苦戦はしているようだが、上背がある分、まだ郁よりも試合にはなっている。
畢竟、郁と組むと相手の訓練にならないので元教官かつ現班長ということで堂上と組まされることが多かった。

「疲れているからって敵が待ってくれるのか?体格にハンデがあるからと手加減してくれるのか?」

そんな事言われなくとも分かっている。体重差でハンデがつくのはスポーツの世界だけだ。
実際、特殊部隊で郁の次に体格で劣る堂上の実力は特殊部隊一である。

「全くなってないな。口でいくら言ってもわからんなら体で覚えろ」
「……体で覚えろったってほとんど触れもしないのにどうやって覚えるっていうんですか」

郁の方がリーチが長いのに何故か堂上の奥襟にはほとんど触れることすらできない。届きさえすれば――いや、届いたところで投げることなど夢のまた夢なのだが。
襟を取ったところからスタートしても全く投げられていない。

「……確かに一理あるな、付き合ってやるから一日千回俺を投げろ」
「せっ千回――!?」
「もちろん俺は投げられるだけだ。いくら口で言ってもさっぱり脳まで届いてないようなんでな、ひたすら投げて身体に叩き込め」

できるわけないだろそんなもん!
喉元まで出かかった言葉をぐっと飲み込んで唯一勝っている身長差で目の前の堂上を睨み付ける。

「無理にとは言わん、やる気がない奴には協力してやる価値もない、時間の無駄だ」
「いえやります」

やる気がないとまで言われてここで引っ込んだら女が廃る。

「なら明日の終業後からだ、支度して道場に集合」
「……了解しましたっ」

かくして終業後の堂上との訓練がスタートすることになったのだった。



「あーもう腹立つあのクソ教官!」

缶をテーブルに叩き付ける様はどう見ても酔っ払いがやさぐれている体だ。しかし缶の中味はジュース、明日の業務に支障を来たすので酒類は飲めない。

ふぅんとおざなりの返事を返す柴崎が手にしているのはフルーツワインのグラスでそこそこ度数は高いはずだがこちらは酔ったそぶりは全く見せていない。

「終業後にわざわざ上官自ら稽古つけてくれるなんてそんなありがたい話ないんじゃないのー」
「そっ、そこだけ聞けばそうなんだけど…でもヤツは違う!何かが決定的に違う!!」

「お願いしてもしてくれないのが普通だけどねぇ、手塚みたいに便乗しないかぎりは」
「その名前を出すなっ!手塚のやつ―――、あいつはあいつでむかつく!」

堂上に噛みつくだけでは飽き足らず、矛先は同期の手塚に向かったらしい。



いくら郁と言えど道場で男女二人きりというのは問題があるらしく、駆り出された小牧にそれなら自分もとわざわざ志願してきたのが手塚である。

一日千回とは言ったものの到底達成できる回数ではなく、郁の体力が限界に達する直前に堂上にストップをかけられ終了、というパターンが定着してきた頃、道場を出たところで手塚と鉢合わせた。
同じ道場で練習してはいても郁は堂上、手塚は小牧と決まった相手としか組まず言葉を交わすこともない。

手塚は疲れ切った郁に一瞥をくれるとすれ違いざまに目も合わさず一言だけ言ったのである。

「調子に乗るなよ」



「業務後に居残り訓練させられてどこに調子に乗る要素があるってのよ!!」

――居残りじゃなくて特別扱いだって手塚に分かってどうしてこのムスメに分かんないのかしらねぇ。

ジュースだけでここまで悪酔いできるなんてある意味羨ましいと缶をスポーツドリンクに換えてみたが一向に勢いの収まらない郁に柴崎はひとりため息をついた。

鍛えれば特殊部隊でもそこそこのレベルまでいけると思われてるってことなんだけど、そんだけ評価されてるのがわかんないのかしらね。

何だかちょっぴり悔しかったのでそれはまだ教えてやらないことにした柴崎だった。

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終わりです。

配属後に柔道訓練があるかどうかはわかりませんが。