危うい境界線

*堂郁(恋人期)

また囮作戦です。

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図書館の正面玄関から脇に入ったところで堂上を含めた各班長が今回の作戦での各員の配置を確認していると、館内配備の柴崎が一人先に支度を済ませて図書館棟から出てきた。

「支度、終わりました。笠原もすぐ来ます」
「どうだ、いけそうか」
「任せて下さい、今回もバッチリです」

喧嘩上等とばかりににやりと笑い合う玄田隊長と柴崎に堂上はため息をつく。こういう作戦がある度にこの二人の意気込みが上がっていく気がするのは気のせいか。
特に郁の衣装を毎回担当する柴崎の凝り具合は女性の服飾にはさっぱりの堂上すら察せられるほどだ。

普段の郁からは想像も着かない程女らしく華やかな外見と普段の訓練の賜物である戦闘能力とが事件のスピード解決に多大なる貢献をしていることは否めない。
しかし作戦のキーである郁の上官かつ恋人でもある堂上としては、華美な格好を目当てに野次馬どもが毎回増えていくのは歓迎できない事態でもあった。

「すいません、遅くなりました」

耳慣れた声に堂上が顔を上げると着替えを終えた郁が小走りでこちらへ駆けてくるところだった。

ピンクのワンピースに白のモチーフ編みのカーディガン、足元は低めのヒールでいつもの作戦とだいたい似たような服装だ。ただいつもと違うところが一点。

「笠原さん今日もよく似合ってる、よ……」

いつもならそつなく誉める小牧も少し歯切れが悪い。手塚など敢えて目を合わせないようにしている。
その原因とは外ならぬスカートの丈、広がったフレアラインの裾が僅かな動きでもひらひらと揺れて白く伸びた郁の足を縁取っているが、その布地は長い郁の足をいかほども隠してはいない。

恋人同士でその中身も知っている堂上だからこそ限界まで脚を出していることもわかる。
こんな服装で犯人と格闘になったら、いや少し動き回っただけでもどうなるかは想像に難くない。

今更着替え直させるなど重大な時間のロスになることは承知の上で、堂上は配備位置の確認を小牧に押し付け、防衛部に指示を出している玄田の元へ走った。

「どういうことですか、笠原のあの格好は!?」
「どういうってご覧の通りだ、何だお気に召さなかったか?」

好みの服着せたいならプライベートでやれなどと全く意に会さない玄田の返答に堂上は苛立ちを隠せず、さらにまくし立てる。

「だいたい今回の犯人は痴漢じゃないのにあんな格好する必要がどこにあるんですかっ」

そう、今回のターゲットは痴漢ではなく図書損壊犯だ。ただ非常に用心深く、警備を厳しくしたトイレは避けてわざわざ階を変え人気の少ない箇所で犯行に及ぶ。
当初は私服で利用者に偽装した隊員を巡回させる作戦を取ったが、男性に対しては強く警戒していて近付くこともままならず、中々犯行現場を押さえられなかった。

ただ、女性の利用者にはさほどでも無かった事から特殊部隊に郁を指名で協力要請が入り、もはやセットとなった柴崎も駆り出される事となったのだった。

「笠原の服装についてはホシに一番不信感を与えない服装ということで柴崎に一任してある、文句なら奴に言うんだな」

取り付く島もない玄田に見切りをつけ今度は奥にいた柴崎に詰め寄った。
こちらも普段の格好よりはスカートの丈が短いが裾が絞った形のデザインで郁よりも危うさはない。

「えー、笠原の場合、背が高くてショートカットってだけでどうしても活発な印象与えちゃいますからね、服装で女のコ要素なるたけ詰め込んでちょうどいいくらいですよー」

それにあっちは機動性損なわないように考えてますしと返されては堂上一人が彼氏の心情というものを論う事はできなかった。

確かに柴崎と同様のスカートで郁が戦闘に入れば裾を破くかもつれて転ぶかどちらかだろう、任務の為と言われれば致し方ない、のか。



長丁場になるから五分休憩との指示が出たので少し喉を潤そうと小牧らに断ってから図書館棟へ入った。

自販機で飲み物を買い、傍らの椅子に腰掛けると奥の廊下から郁が歩いて来るのが見えた。
郁もすぐ堂上に気付いたようで方向転換をしてこちらに歩いてくる。

堂上の正面に立ち、「何回やっても緊張しますね」とインカムをいじる。普段よりやや声が硬いが上擦る程ではない。いい緊張の部類だ。
今郁の頭のなかは犯人確保でいっぱいだろう、突っ走るきらいはあるものの意欲と士気は賞賛に値する。

そんな時にスカートの丈だの中身だの下世話な事に囚われている自分は上官失格なのかも知れない、しかし――。
一人葛藤する堂上に郁は訝しがって首をかしげる。話題をそらそうと堂上は手元の缶を差し出した。

「飲むか?」
「はい、頂きます」

そう答えて郁は缶を受け取って口元へと運ぶ。僅かに動く白い喉元が眩しい。

そしてその動きに合わせてゆらゆらと揺れる目の前の布地にも目を奪われる。
見ないようにしてもやはり視線がそちらへいってしまい、意識して何もない中空を見つめる。

――限界だ。

「そのスカート、短すぎないか」
「これですかー、あたしも初め渡された時はビックリしました」

意を決して口を開いた堂上に郁は軽い口調で答え、軽そうな生地の両端をつまんでみせる。それだけで見えてしまいそうなくらいだ。

「……それで戦闘できるのか」

柴崎が先ほど言った機動性とは違う意味でだ。いざ戦闘となればそんな事は頭から吹っ飛んでしまう性格なのはよく分かっているし、作戦直前にこんなことを言えば逆に気にして身体が動かなくなるかも知れない。
しかし、恋人として黙っていられるようなことでもなかった。すると郁は顔を赤らめるどころか平然と言った。

「大丈夫ですよー、投げでも蹴りでも」

むしろいつものスーツよりも動きやすいくらいと意気込む郁にはやはり堂上の意味するところは伝わってないようだ。

「そうじゃない、……その格好で足を上げたら」

あまり直視していなかったスカートの裾に目をやると郁はようやく気が付いたようで「あぁ」と危うげに揺れる裾に手をやった。
そして……

「おい、何を……!!」

あろうことか、裾を掴んで――そのまま上にめくり上げたのだ。

そこにあったのは堂上が想像していたものではなくデニムのショートパンツ、短いスカートより更に短い為見えなかったらしい。

「最近のコってすっごく短いスカート履いてて階段とかで見えないのかなって不思議だったんですけど、みんなこうやってたんですねー」
「……そうか」



結果、郁が思う存分その長い足を振り回したおかけで無事犯人は捕えられたのであったが、作戦成功で沸き立つ隊員の中、堂上一人は複雑な表情のままであった。

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終わりです。
玄田&柴崎の喧嘩上等コンビの中でサブミッションは『堂上をやきもきさせる』に違いないと。