読書の秋

*堂上班+柴崎(別冊2後)

秋といえば読者の秋、ということで本ネタです。
最後は手柴気味。

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その日、朝から堂上夫妻の様子が少しおかしかった。なんでもない体を装ってはいるが小牧にとってそれを見抜くことなど造作もない。
他愛ない夫婦喧嘩、それも堂上が何か言って郁が拗ねているよくあるパターンと見受けられたので放って置いたが、堂上班がそろって昼食を取っている頃さしもの手塚も気付いた様だったので、お節介を覚悟でタオルを投げ入れる事にした。

「当麻先生の新作読み終わったら貸してって言ったら絶対嫌だって。酷いと思わないですか?」
「貸すのは構わんが、感想は語るなと言ったまでだ」

それとなく尋ねた小牧に始め気まずそうに目を逸らした堂上だったが、口を開いた郁に負けじと反論する。

「ひっどーい、本の楽しみ方は個人の自由じゃない」
「ああ、楽しみ方は自由だ。だがなその楽しみ方は一切俺に漏らしてくれるなよ」
「それって言外に楽しみ方を否定されてる気が……」

想像よりも更に些細だった原因に小牧は口を挟んだ事を多少後悔したが、一旦出した以上は収拾をつけるしかない。

「まぁ当麻先生の事になると堂上もちょっと大人気ないからね」

ここは夫側に泥を被って貰うとしたもんだろう、突き刺さる視線をさらりと流して手打ちを匂わせると堂上もそれ以上何も言わなかった。

「小牧教官は最近どんな本読んでるんですか?」
「そうだねぇ、最近は時代物でもあまりおじさん向けじゃないのがよく出てるから毬江ちゃんと一緒に読むかな、小説に出てきた史跡に二人で出かけたりして結構楽しいよ」

ころりと機嫌の直るところが郁の郁たる所以である。
そのまま流れた会話に小牧が乗ってやると郁はうっと呻いて黙ってしまった。

「……歴史はあたしからきしだったんで……」
「そんな堅苦しいもんじゃないよ」

そうは言っても郁にはかなり抵抗があるらしい、余程苦手だったのか、話を手塚に振った。

「じゃあ手塚は?……や、やっぱいい」

自分にお鉢が回ったかと思いきや出された質問を即座に引っ込められ、手塚は面白くない顔をそのまま表に出す。

「だって業務関係の本メインで読んでそうだもん、あと実用書とか」
「まぁそうだな、最近はあんまり読めてないけど」

固い顔を崩さない手塚に郁は亀のように首をすくめ、控え目に先を続ける。

「じゃどんなの読んでるの?」
「……さあな」

仏頂面が崩れるどころかそのまま更に眉間に深い皺を寄せる手塚に、これは手塚の弱点発見かとばかり郁は勢いを取り戻した。

「えー何でいいじゃーん、……」

一瞬の沈黙に郁が何を考えたかなど聞くまでもない、おそらく郁以外の三人は同じ事を考えただろう。

「あいつに聞こうとか思ってるだろ」
「え……ダメ?」
「……いや、俺が口出すことじゃないしな」

当然手塚の妻であり郁の親友でもある麻子から情報を聞き出すのが一番手っ取り早い。

客観的には十分口出しする権利はありそうなのだが、それを言わないのは手塚のプライドなのか。

「柴崎は?最近おもしろそうなの読んでた?」
「おもしろがってはいたが……今読んでるのは四季報、だな」

「シキホウ??」
「しかも兄貴から借りたやつらしい」

話中の人間が替わっても依然として苦い顔の手塚を前に、さっぱり分かっていない郁を堂上が横から引っ張り説明してやっている。

「四季報って……お兄さんの方はわからなくもないけど柴崎さんも?株でも始めるの??」
「いや、投資はあんまり興味ないみたいで。単なる趣味らしいですが」

思わず吹き出した小牧に手塚の眉間の皺がますます深くなる。

「単なる趣味で……まぁ柴崎さんらしいっちゃらしいんだけど……くっ」

堪え切れなくなったようで上手く昼食のプレートを避けて机に突っ伏した小牧の向かいで、いつの間にか堂上は当麻作品の何たるかを延々と郁に語っている、先ほどの遺恨はまだ残っていたらしい。

そして残された手塚は話題が逸れた事に人知れずほっとしていた。



一区切りつく頃合いを見計らって麻子は入れておいた紅茶を出す。脳への血流が悪くなるからと茶菓子はなしだ。

「だいぶ慣れてきたんじゃない」
「まあな」

このところ手塚が読み込んでいる本を脇から覗く。少し先に予定されているおはなし会で使う予定の児童書である。

「そう言えば笠原にこの本の事話さなかったんだな」

本を傍らに置いて紅茶を一口すすり、手塚は麻子にそう言った。



昼間、食堂を出るとすぐ戻るからと郁は一人別に戻った。
おおかた麻子に本のことを聞きに行ったのだろうと見当はついたが、戻ってきた郁の顔は手塚の予想に反して不満そうだった。

「教えないって」

きっと麻子のことだ、手塚が止めなかった以上、苦労しながら児童書の読み聞かせを練習しているのを面白おかしく郁に話して聞かせるに違いないと思っていたのにと意外に思ったが仔細を問い詰める時間はなく業務に戻ることになったのだった。



そんなことをかいつまんで話すと当然よと麻子は長いまつげに縁取られた目を細めた。

「……期が熟すのを待った方が値が上がるかなって」
「俺は出荷待ちのメロンか」

予想通り憮然とした夫の反応に満足して麻子はもう一言付け足してやった。

「こんなレアなとこ誰が教えるもんですか」

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終わりです。