アツイ視線

*堂郁(恋人期)

付き合いたて、特殊部隊事務室にて、です。



ちらり、ちらり。
……またちらり。

――ダメだ、仕事仕事!

手元の書類に視線を戻し必要事項をがりがりと埋めて行く。
しかし後ろから椅子を引く音が聞こえ、人の立つ気配がすると途端に意識がそちらに奪われる。誰かなんて考えるまでもない。

その気配は郁の横を通り過ぎ、向かいの机越しに目の前を歩いていった。
その様子を目だけで追ってからはたと気付きまた手を動かす。

堂上が復帰してからというもの郁は自己との闘いに明け暮れていた。事あるごとに堂上を目で追っかけてしまっている自分に気付き慌てて元の作業に戻る、の繰り返しだ。

こんなことでは隊内の誰に見咎められ、からかいの標的になるやもしれない。それ以前に仕事が手に付かない。

――とは言うものの、ねぇ。

ちらりと目線を上げて副隊長と話をする堂上を見つめた。
以前柴崎が結構かっこいいと言った時には全力で否定したものの、改めて見ると、

カッコイイ、よねぇ。

惚れた欲目かもしれないが、仕事ができ頼りになる上官という肩書を抜いても堂上はそれなりに見場も良い。
精悍な顔立ち、プライベートでの優しい笑顔も捨て難いが仕事中の引き締まった横顔もかなりのものだ。

その堂上と自分が恋人同士である、その事実が未だに信じられない。

また手元がおろそかになっている事に気付いて郁は慌てて自分を諌めた。



ちらり、ちらり。
少し経ってまた、ちらり。

自分に言い聞かせるようにかぶりを降って机に視線を落としているが、堂上が席を立つとピクリと反応する。
堂上が横を通ると頭は動かしていないが意識がそちらへ行っているのが丸判りだ。

「笠原さん」
「はいいっ」

びくっと過剰に反応したのは他へ神経が行っていた証拠だ。

「ちょっといいかな」

堂上が隊長室に入っていったのを見届けて小牧は郁に話を切り出した。

「気持ちはわからなくもないけどさ、もうちょっと控えてくれないかな」
「はい?」

小牧の苦笑に郁はきょとんと不思議顔だ。全く何のことかわかっていないらしい。
あれ程駄々漏れだとは夢にも思っていないのだろう。

――ホントにこの辺は抱きしめたくなるほど可愛いんだけどね。

そうは言ってもそろそろ隊員の精神安定上、ここらで控えて貰わねばなるまい。初めは面白がってにやにやと眺めていた隊員達もさすがに食傷気味、彼女のいない淋しい独り身隊員などはあまりの甘ったるい雰囲気に発狂寸前だ。

小牧自身は何のダメージも受けていないが隊内の治安維持の為、腰を上げた次第であった。



堂上が隊長室の扉を開けると小牧が自分の席に戻るのが見えた。自分も早速隊長に押し付けられた仕事に取りかかるかと席へ戻ろうとするが、道すがら目に入った郁の様子が何やらおかしい。
肩にはガチガチに力が入っており、顔は何故かほんのり赤い。

「何した」
「いや、あのちょっと」

ちょっという様子ではない。
晴れて郁の恋人という称号を手に入れてから、公私の線引きには殊更気を使うようにはしてきた。業務中にプライベートな会話はしないつもりだが、これはプライベートの範疇を超えている。

「小牧に何か言われたか」

隊長室を出た時の事を思い出し、問うてみると郁の顔が真っ赤に炎上した。図星か。

「な、何でもありません!」
「その顔のどこが何でもないんだ」

力いっぱい否定するところがますます怪しい。

「いえ、それはその……」
「分かった、なら小牧に聞く」
「や、ちょっと待って下さい」

じゃあ何だと聞いてももごもごと口ごもるのみでさっぱり要領を得ない。埒があかんと小牧の席へ踵を返しかけた途端、郁の大声が堂上の耳を突き刺した。

「業務中に堂上教官の顔チラチラ見ててバレバレだからもうちょっと控えてとか言われたなんてこんなとこで言える訳ないじゃないですか!!!」

しばらく事務室中が静まりかえったが、耐え切れなくなった小牧がぷっと吹き出したのを皮切りに、爆笑の渦に包まれた。
続いて盛大な野次が飛ぶ。

「アホか貴様何てことを大声で叫ぶんだ!」
「言えって言ったのは教官じゃないですかーーーーーッ!」

怒鳴り合う二人のやり取りも猛者達の野次を治めるどころかさらに煽るだけだった。

「……か、笠原さん、も……公認みたいだから……控えなくて好きなだけ見てていいから」

そう言った切り上戸に入って戻ってこない小牧を恨めしそうに睨む堂上と首から上を真っ赤にした郁をよそに、事務室内にはいつまでも笑い声が響いていた。



終わりです。
可愛そうな手塚と独り身の隊員はまるっと無視で。