試験勉強の合間に

*堂郁(危機、士長昇任試験前)
昇任試験勉強中の郁&教官です。



コーヒーを入れて戻ってくると郁は堂上が部屋を出て行った時と同じ姿勢で机に向かっていた。が、首から上がこっくりこっくりと揺らいでいる。
これが数日前なら盛大に拳をくれてやるところだが、柴崎の事前情報が入っていたおかげでそれは回避された。

士長昇任試験を間近に控え、筆記に大いに問題のある郁の勉強を堂上が見出してしばらく経つ。
このところかなり眠そうな顔をよくするので訝しがっていたところ、本人に問い質すより先に同室の柴崎から行きさつを聞かされた。

堂上との勉強を終え部屋に戻った後も柴崎にわからないところを教えて貰っていて、このところ寝不足なのだと言う。

「堂上教官に何度も同じ事を聞くのは気が引けるみたいでこのところ毎晩付き合わされてるんですよー」

質問なら自分に聞けばと思った堂上の心中を察したかのようにフォローを入れ、まあ復習がてらちょうどいいですけどねーなどといいつつ、柴崎はちゃっかりサポート料を約束させていった。

「答えは覚えてないくせに何度も質問したことだけは覚えてるのがあいつらしいですけどね」

皮肉るように付け足したものの柴崎は柴崎で心配していたのだろう。
最近は館内業務が多く余計疲労が溜まっていたかもしれない。普通は逆だろうが肉体労働よりも頭脳労働の苦手な郁なら納得できる話ではある。

即座に起こす気にはなれなくて堂上はそっと二人分のカップを机に置き、しげしげと郁の寝入る様を眺めた。

よくもまあそれだけ派手に揺れて起きないものだと感心する程の舟の漕ぎっぷりだが、ふと動きが止まったかと思うと郁の頭が大きくぐらんと揺れた。
後ろに振った反動で本来の位置を通り過ぎた頭は重力に任せて真っすぐ机へと向かう。

咄嗟に堂上は手を差し入れ、郁の額を片手で覆う形でどうにか机へ激突するのは防ぐことができた。顔面をわしづかみにすることを避けられたのが奇跡だ。
この期に及んでまだ起きないのが信じられないが、郁は堂上に頭の重みを預けたまま呼吸は規則正しく全く目覚める様子がない。

額を支えている掌が熱い。熱でもあるのかと一瞬心配したが、元々体温が高いのだろう、それと――。

――本気で熟睡しやがって。

しっかり寝入って体温の上がっている郁をどうしてくれようかと思案するが、まずはこの体勢をどうにかせねばなるまい。脱力し切った人間の頭は意外に重い。
まっすぐ戻したところで先程の振り子状態になるのは目に見えていたので、机にそっと軟着陸させることにした。
郁の額を乗せた手を少し傾け、もう片方の手を頬に寄せる。日頃の訓練では全く気遣いなどしていなさそうだが、その肌は柔らかく滑らかで、やはり女の肌だ。

首を横に向けさせてそっと机の上に降ろす。頬に当てた手をゆっくりと引き抜く時、小指がかすかに唇を掠めた。
触れた指先がピリピリと痺れる。
抗えない何かにせき立てられるように堂上は再び手を伸ばした。

人差し指で桃色の曲線をそっと撫でる。あどけない寝顔はどう見てもむさ苦しい男共と日々厳しい訓練に明け暮れているなどとは思えない。
かすかに赤みのさす頬に触れ、薄く開く唇へと指を滑らせた。
弾力のあるその唇に自らのそれを重ねたところが脳裏に浮かぶ。慌ててその想像を掻き消そうとすると郁の唇から小さく吐息が漏れた。

「ん……きょう……かん」

予期せず自分の名前を呼ばれ心臓が跳ねる。いや、教官ならば小牧にも当て嵌まると自分に訂正を入れたところで跳ねた心臓はなかなか元には戻らない。
込み上げる衝動を抑えつつ、堂上は再々度郁に手を伸ばした。



「ギャアっっ」
「貴様、人に勉強を見て貰っておきながら寝るとはいい度胸だな」

盛大に拳を入れた後、ギリギリと頬をつねり、今の柔らかな感触を忘れようと努めた堂上なのであった。



終わりです。
扉の外ではきっと小牧&タスクフォースの皆さんが鈴なりです。