副隊長の部屋から愛を叫ぶ

*進藤+堂上(堂郁夫婦)

既婚者同士、熱血漢同士で酒を飲み交わしてみました。

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テーブルの向かいに座り込んで飲んだくれる突然の闖入者に緒形は深く深く溜息をついた。

――久々にいい酒をちびちびと飲もうかと思った矢先にこれだ。

元同期で元同室で、だからこそ酒癖の悪さもよーーく知っている、とっくに昔に結婚して官舎へ移ったはずの進藤がハイペースで酒を煽っている。

「そりゃ俺が言い過ぎたのは認めるさ、だがあいつにゃ口じゃ勝てねえからついカッとなってさ」

緒形の部屋に転がり込んできた進藤は既に出来上がっており、延々と繰り返されるクダ巻きから推察するに、嫁さんと喧嘩してつい口が滑ったらしい。

「お前が悪いんならしょうがないだろ」
「だからって『パパ、サイテー』って……そりゃないだろおぉーーー」

そのまま進藤はテーブルに突っ伏して愛娘の名前を叫ぶ。
いらんことを口走った代償に娘から強烈なセリフを喰らっていたたまれなくなり、逃げ出してきたのは明らかだが、原因の一言は決して漏らさないことからかなり酷いことを言ったと自分でも自覚しているようだ。

「自業自得なんだからさっさと戻って謝り倒すんだな」
「っ冷てーなーー、やっぱ独身者には俺の気持ちなんて分んねえんだよ」

その独身者の塊である独身寮に転がり込んできて散々人の酒を飲んでる癖に何を言うかと思わなくもなかったが、ここまで飲んだくれた進藤はもはや放って置くしかないというのは経験上分かっていた。

持ち主であるはずなのに部屋の真ん中は進藤に明け渡してちびちびと緒形もビールを飲む。
飲むつもりだった久々のいい酒は進藤に突入されてすぐ、見つかる前に間一髪で隠した。見つかったらじっくり味わわれることもなくあっという間に空になることだろう。

だが今夜の進藤はこれしきのクダ巻きでは収まらなかったらしい、「やっぱ妻帯者じゃないとな!ともにこの痛みを分かち合おうぜ」と携帯を取り出す。
夫婦喧嘩もしていないのに一方的に進藤の痛みを分かち合わされる者の身にもなれと緒形は携帯をひったくろうとするが、酔っ払っていても特殊部隊きっての狙撃手らしい身のこなしは失われないらしい、何なくかわされ進藤は発信ボタンを押した。



「今すぐありったけの酒とつまみ持って緒形の部屋に来い!」
「はあ?何言ってるんですか、てかあんた今副隊長の部屋にいるんですか!?」
「そんなこたぁどうでもいいんだよ!お前が来ないならお前以外の堂上班集めて一人だけ除け者にしてやるからな!!」

吠え面掻くなよ!と子供の喧嘩のような口上に乗せられたわけでは全くなかったが、自分が行かなければ他の堂上班が呼び出されるというのは十分脅迫だ。小牧は適当に捌くだろうが、手塚と郁が年も階級もかなり上の進藤の誘いを蹴れるとは思えない。

渋々了承の返事をして携帯を切り、突然の電話に不安を隠せない妻に「緒形副隊長の部屋で飲んでくる、進藤三監もいるらしい」と無難に告げて持てるだけの酒とつまみになりそうな惣菜を手に、堂上は官舎を後にした。



「遅いぞ堂上、さっさと座れ!」
「はぁ……」

重い酒瓶を提げて堂上が緒形の部屋に到着するとど真ん中に陣取っていたのは酩酊状態の進藤だった。部屋の主である緒形は隅の方で壁にもたれて座っており、軽く片手を上げて見せた。
この酔っ払いを制御するのは諦めたのだろう、緒形が不可能だった事が堂上に可能な訳がない。
とことん付き合うしかないかと堂上は進藤の向かいに腰を下ろした。

「済まんな、独身の俺では力量不足だったらしい」
「いえ慣れてますから」

そう、特殊部隊の飲み会でも堂上はいつも介護役である。そして進藤はいつもしこたま飲んで騒ぐタイプだ。
さあ飲めとばかりにビールの缶を押し付けられ、ぐいっと呷った。

それから延々と進藤の愚痴が始まり、緒形も聞かされた話が何周目かに入ったところでテーブルに伏せた状態の進藤が両腕の間からから顔を上げ堂上を睨んだ。

「お前全然飲んでないじゃないか」

全く様子の変わらない堂上に不満をあらわにする進藤に「飲んでますよ」と空になったボトルを示す。

「そんなんじゃ全然面白くないだろう、もっと飲め、そんで酔っ払え!」

――そもそも俺はあんたにムリヤリ呼び出されてここにいるんだが。

酔っ払い相手にそんな事を言っても意味がないのは毎回毎回馬鹿騒ぎを繰り返す特殊部隊の飲み会できっちり身に浸みこまされている。

「おおそうだ、なら俺がいいものを作ってやる」

急に嬉々として進藤はボトルを物色し始め、なにやらグラスに注いでいるようだ。

「飲め堂上、特製カクテルだ」

ドンっとテーブルに置かれたグラスにはカクテルという割に透明の液体がなみなみと注がれている。

「何ですかコレは」
「それは飲んでみてのお楽しみ、これぞ進藤スペシャル、名付けてSSSだっ!!」

不審極まりない物体だが進藤が酒と言うからには酒であることだけは確かなのだろう。
逆らっても無駄だし酒には多少の自信があると半ば一気に流し込んだのがまずかった。焼け付くようなのどの痛みに咳込んだ堂上が辛うじてひっくり返さずテーブルに置いたグラスには半分ほどの量しか残っていなかった。

「大丈夫か堂上?」

咳き込む堂上の背中を緒形が叩いてやるが進藤は全く意に介さず意気揚々と口上を述べる。

「特製ウォッカとポン酒のカクテル、ちなみにウォッカは特殊部隊御用達スピリタス、日本酒は日本一度数が高いと言われてる大吟醸原酒!これを超えるにはもうエタノールぶっ込むしかないぜ!!」

そして進藤が続けた日本酒の銘柄に緒形はビールを噴き出した。
慌てて今日開けるつもりだったとっておき酒の隠し場所を確認するがそこは当然もぬけの殻で、進藤を睨んでも「俺をなめるなよ、どんだけお前の部屋でお前の酒飲んでると思ってんだ」とむしろ誇らしげである。

秘蔵の酒を荒らされた仕返しをどうしてくれようかと緒形は思うが、そんなことより今はアルコール百パーセントに近いウォッカと蒸留酒より悪酔いする醸造酒の原酒のカクテル、いやカクテルというより只のちゃんぽんだが、それを飲まされた部下の心配が先だった。

ようやく咳が止まりテーブルの脇に倒れ込んだ堂上はそのまま気を失ったかに見えたが両手を床についてむっくりと体を起こした。

「お、おい堂上……大丈夫か?」
「あんた……何…てモノを……」

派手な咳は治まってもまだ喉の痛みが完全にとれた訳ではないようで、緒形の助けを借りながら起き上った堂上はケホケホと小さく空咳をしながら進藤を見上げた。が、その表情は先ほどとは一変して明らかに目が据わっている。

「だいたいいい年して嫁さんと喧嘩して独身寮に逃げ込むなんぞ情けない真似をするか!?挙句部下にこんな酒飲まして監の人間のやることか!!」
「何だと!?そういうお前はどうなんだ?」

今までとは打って変わった形相で進藤に掴みかかる堂上に進藤も反発する。

「どうって?ウチは喧嘩なんぞしとらん!」
「喧嘩はしてないだろうがな、好きだとかちゃんと言ってやってるのか?」
「うっ……」

ふふんと鼻先で笑った堂上だが進藤に突っ込まれた一言に言葉が詰まる。
日本人男性でそんなことをてらいもなく言う方が少ないと思うのだが、自分が不器用だという自覚があるだけに堂上は反論できないようだ。

「それみろ、どうせ愛してるの一言も言ってやってないんだろ?」
「それは、その……あんたに心配されることはない!」

どうにか噛み付き返した堂上に勢いを取り戻した進藤がさらに挑発した。

「どうかな、なら今ここで言ってみろよ」
「なっ、何でここで!」
「言えないのか?ここで言えない奴が本人を目の前に言えるとは到底思えないな、やっぱり口先だけか」

お互いに煽り煽られ話がだんだんエスカレートしてゆく二人に緒形は嫌な予感がした。

「何だと、じゃああんたは言えるってのか」
「ああ、言ってみせてやろうか?」
「おい、進藤……」

そもそもここは緒形の部屋であるということを酔っ払い二人は完全に失念している。
止めようとした緒形の腕をすり抜けて進藤はベランダに飛び出し、手摺りを乗り越えかねない勢いで妻の名を叫んだ。

「俺が悪かった、愛してるぞーーーーーー」

「おい、やめろ」
「許してくれえっ、ただ、ちょっと悔しかっただけなんだぁーーーーーー」

そろそろ夜間は肌寒い季節なので窓を開けっ放しにしている隊員はまずいないだろうが、この大声ではさすがに聞こえるだろう。
腕に手を回して中へ引っ張りこもうと苦戦する緒形の横へ、今度は転がり出るように堂上が現れた。

「いくーーーーーっっ、好きだぁーっ、あいしてるーーーーーっ」
「俺だって負けてないぞ、愛してるぞーーっ」

「いつだって思ってる、言葉で言えないだけなんだ!こんな俺を許してくれぇーーー」

暗闇に向かって吠える男達を緒形は半ば羨ましく、半ば呆れて眺めていた。

さすがに二人まとめて部屋に連れ戻すのは緒形の手に余る。
とりあえず寮監にだけでも話を通しておくかと部屋に戻った緒形には気づかず、二人の熱い男はいつまでも叫び続けていた。

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後日談、あります。
ちなみにSSS=『SHINDO's special SAKE』です。真似なさらないように……