副隊長の部屋から愛を叫ぶ〜その後&次の日〜

*進藤+堂上(堂郁夫婦)

副隊長の部屋から愛を叫ぶのその後&次の日です。

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カシャ。

目の前の光景をカメラに納めると本文を打つのももどかしくて件名だけを入力し、小牧はメールを送信した。

そして延々と叫ぶ堂上を尻目に傍らの緒形へ「それで寮監は」と問い掛けた。

「何言ってるかはっきり解り過ぎて不審に思われそうにもないから逆にいいんじゃないか、だとさ」

肩を竦めた緒形に小牧も同じ仕種をしてみせる。一癖も二癖もある寮生をかかえる寮監らしいと言えばそうなのかもしれないが、肝が据わっているのかいい加減なのかよく解らない。

緒形からの緊急の呼び出しに小牧が駆け付けると、進藤が先輩達に羽交い締めで部屋から連行されていくところだった。小牧も堂上の回収を試みたが、酔っ払いに本気で抵抗されては勝ち目がない。

「絞め落としていいですか」
「いや、吐かれると困る。手塚――は黙らせてから呼んだ方がいいな」
「ですね」

上官信仰の強い手塚に堂上のこんな姿をみせたら当分使い物にならなくなる危険性がある。

とりあえずしばらく様子を見て、緒形と二人がかりで担ぎ上げる事にした。



翌日、特殊部隊の掲示板にはスポーツ紙を摸した紙がでかでかと貼られていた。

『激撮・副隊長の部屋から愛を叫ぶ!』
スクープ記事よろしくこれまたデカイ飾り字で書かれたコピーの横には、緒形の部屋のベランダを仰瞰で撮った写真、そこに浮かぶ二つの人影は薄暗くてよく判別がつかないが、当の両人には一目瞭然だ。

続く記事本文には進藤、堂上の両名がしっかり名前入りで載っており、ベランダから叫んでいた様子が微に入り細に渡って書かれていた。

羞恥で固まる堂上の傍らで「ま、音声入りでなかったのがせめてもの救いだな」と進藤はあっけらかんとしている。

周りの囃し立てる声に怒鳴り返す気力もなく立ち尽くしていた堂上だが「笠原の顔が見物だな」という声に我に返った。
周囲の制止をものともせず、時間ギリギリに出勤してくるはずの妻に見られないよう、堂上は迅速に目の前の忌ま忌ましい紙きれを引っぺがしたのだった。



「お疲れ」
「あ、柴崎お疲れー」
「今日は一緒じゃないの」
「うん、あたしはちょっとやり残しがあって」

官舎へ戻る途中に呼び止められて郁が振り返ると元同室の柴崎がにこやかに立っていた。一緒じやないのと言われてそれが夫である堂上のことだと当然のように伝わるのが少し照れ臭い。

毎日とはいかないが同時に上がれるときは一緒に帰る。今日は夫が定時で自分が少し後になった。

「いいもの、買わない?」

柴崎がくるりとマジシャンよろしく手の中から取り出したのは小型のICレコーダー、情報屋には必須だと言って最新型を購入していたのを聞かされた覚えがある。

「いや、あたしには使い道ないし」
「違うわよー、コレじゃなくてな・か・み」

情報屋の必須アイテムを手放すわけないでしょーと言いながら柴崎はカチカチと器用に細かいボタンをいじって「試聴は一度切りになりますー」と郁に差し出した。

「音量小さめにしてるから」と言われて耳元に寄せるとざわざわとノイズが聞こえ、次いで男のがなるような声が聞こえてきた。
一瞬耳を疑ったが、その声は間違いなく夫、堂上篤のものだ。

『いくーーーーーっっ、好きだぁーっ、あいしてるーーーーーっ』

再び耳を疑ったのはその内容で、一度レコーダーを離し、まじまじと確認してから耳に当て直した。
今までこんな事を言われたことはないし、また言うようなキャラでもない。正確には睦事の際それらしき言葉を言われた記憶はあるが、もっと控えめに耳元で小さく囁かれただけだ。

『いつだって思ってる、言葉で言えないだけなんだ!こんな俺を許してくれぇーーー』

――何で?いつ!?どこでこんなコト――。

思い当たるのはひとつしかない。昨日、緒形の部屋に飲みに行って中々戻らないのを心配し出した頃、殆ど意識のない状態で小牧と手塚に担がれて帰ってきたのだ。

「なるたけ吐かせたから後は水分取らせて」と小牧に言われ、何か言いたげな手塚に「言われなくてもポカリなんか飲ますかっ」と噛み付いた事を思い出す。
どれだけ飲んだのかと訝ったものの今朝は軽い二日酔い程度で出勤した夫を見送り、心配している間に自分は遅刻しかけたのだった。

「値段は応相談ですわよ、奥様」
「ううん、やめとく」

どこのあきんどかと突っ込みたくなるような仕種の柴崎にあっさり断りを入れると「あらそう、つまらないわねー」と膨れられたがもちろん口だけだ。

「聞かせてくれてありがと、柴崎」

じゃあ帰るねと言って別れの挨拶もそこそこに走り出す。

愛してる。
いつだって思ってる。
言葉で言えないだけ。


一度聞けば十分だ。

早く夫の顔が見たい。ほんの僅かな距離なのにそれももどかしくて郁は全力疾走で官舎へと急いだ。

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終わりです。
関東図書基地の見取り図を見返してみましたが、女子寮に聞こえて官舎に聞こえないという設定は微妙かもしれないです……堂上家がどこにあるかに寄りますかね。聞こえなかった事にして下さいー。