敵は内にあり

*手柴+娘+手塚兄

≪未来話≫≪捏造設定≫です。ご注意下さい。

********************

今日は日曜日で娘は休みだがたまたま手塚も麻子も仕事が入った。
もう一人で留守番くらいできるとはいえ出来るだけどちらかが公休を取れるようにしてきたが、たまには上手く行かない時もある。そんな時は夫の実家に預かって貰う事が多かった。

仕事を終え先に官舎に戻った麻子は夕食の支度をする手を止め時計を見上げた。

晩御飯もご馳走になるとメールが入ったから今日はもう少し遅くなるだろう。最近物騒だから光に駅まで迎えに行って貰おうかしら。
そんな事を考えていたらインターホンが鳴った。夫が帰ってきたようだ。

「お帰りなさい。お仕事お疲れさま」
「ああ、ただいま……」

出迎えた麻子への返事はおざなりだ。大方娘の姿が見えないせいだろう。
「手塚家で晩御飯ご馳走になるって。メールが入ったわ」
「そうか。また母さんが張り切って色々作ってるんだろうな」


手塚はわずかにがっかりした表情を見せる。麻子からすればバレバレだが、それには気づかないふりをする。

「お義母さんにはお世話になりっ放しよね〜感謝しないと。あ、ご飯もうできるわよ」
「ああ、腹減ったな」


夕食を終え、そろそろメールが来てもいい頃だと思っていたら、娘が帰ってきた。しかも凄い荷物をかかえている。

「ただいまぁ」
「あんた駅から歩いてきたの?夜はメールしなさいって」
「荷物多いからタクシーで帰りなさいってお祖父ちゃまが。」

麻子の台詞を遮って重たーいと言いながら大量の荷物をドサっと床に置く。出かけるときは小さなバック一つだけだったはずだ。

「どうしたんだ?その大荷物」
「慧叔父様がお土産だって。また今日も偶然いらしてたの」

…やっぱり。
夫に答えを返しつつ袋から土産ものを次々と取り出す娘を見ながら軽く溜息をつく。
これは大阪のお土産、これはフランス、これはお台場…

何でお互い東京在住でお台場土産がいるのよっと頭の中でツッコミつつ、大事な大事な弟にそっくりな、これまた大事な大事な姪の為に大量の土産ものを抱えて実家を訪れる義兄の顔が頭に浮かぶ。

娘の叔父、即ち光の兄、慧は手塚家に行くと必ずと言っていい程いるらしい。実家に預けるのはどうしても予定が合わない時だから不定期だし、互いの仕事の都合で急にお願いすることもあるから偶然にしては出来過ぎている。

「出張のついでににお土産買ったから今度来た時に渡して貰おうと思ったんだけど、たまたま遊びに来てたなんて偶然だなぁ」
毎度のようにそう言うらしいのだが、本性を知っている麻子からすれば、白々しい事この上ない。
どうせ自分と光のシフトをチェックした上で溺愛する姪っ子に会いに来てるに決まっている。


「全くあの人も毎回毎回よくやるわよね」
「別に実害はないんだからいいんじゃないのか、兄貴も好きでやってるんだし」

娘が部屋に引き上げた後、麻子は手塚の家にお礼の電話を入れ、リビングで本を読む夫に皮肉を投げたが暢気な返事が返ってきただけだった。
――全くこの兄弟は結局お互いに甘いんだから。

「本気で光源氏目指してんじゃないかしら」
いきなり古典文学の主人公を出され、手塚は意味がわからないという顔をする。

「光には言わなかったけど、娘が生まれる前、あの人『ゆかり』って名付けたがってたのよ。冗談めかしてたけどあれは半分本気だったわね」
「ゆかりってえんもゆかりもの『縁』か?」

別に悪い名前じゃないじゃないかとでも言いたげな夫に思いっきりの仏頂面を突き付けて言い放つ。

「違うわよ、漢字でむらさきって書いてゆかり」

光源氏で紫と聞いてようやく理解したらしい、手塚はがっくりと肩を落とし「本気かよ…」と呟いた。

落ち込む夫を尻目に、麻子はここらであの義兄に一矢報いるカードはないのかしらねーと思いを巡らせ、そう遠くない将来実現するであろう事に思い当たり一人にっこり微笑んだ。


気がつくと娘がいつも見つめている背中。
あたしの大切な親友と光の尊敬する上官の背中を見て育った2つ年上のご近所さん。

無鉄砲で熱血漢、後先考えず突っ走るので結果娘がその場を取り繕うハメになる事も多々ある。
毬江ちゃんが憧れた小牧教官のように優しい大人のお兄ちゃんとは言い難いけど、誰よりもまっすぐで情に篤い。

夫はまだ知らない。堂上夫妻も息子も知らないだろう。もしかしたら娘自身も自分の気持ちに気付いてないのかも知れない。

でも麻子には分かる。自分と夫譲りで人付合いにはソツのない娘が堂上家の一人息子と接する時、ほんの少し、息を止めて気合いを無意識に零れる気持ちを押し止めようとするかのように。

可愛い可愛い姪っ子がよりによってあの堂上夫妻の息子しか見えていないと知った時の義兄の顔を想像すると少し溜飲が下がる心地がした。

――その時は絶対この目で見たいものよね。
そう独りごちて麻子はまだ頭をかかえている夫の背中へもたれかかった。

********************

手塚兄は手塚の子供をジジババ以上に溺愛すると思います。