道なき道

*柴崎

柴崎の過去。オール捏造
暗めです

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昔から本は好きだった。
両親は共働きでいない事が多かったし、妹や弟の世話を任されていたのでその間は大概本を読んでいた。


中学に入るとお守りは必要なくなったが、人とは違う容姿と言い返さないと気が済まない性格のせいで敵が絶えなかった。
世間話をする程度の友人はいても、ある日突然口を聞かなくなり柴崎の悪口を撒き出すという事が度々おこり、学校の図書室に引きこもる事が増えた。

図書室なら私語厳禁なので煩く声をかけてくる輩もいない。
休み時間の大半をそこで過ごし、蔵書はあらかた読み尽くしてしまった。


高校へ進学し、人間関係には細心の注意を払った。
常にアンテナを張って誰が誰をどう思っているのか、自分がこう言えばどこへどう歪んで伝わるのか、全てを把握していないと安心できなかった。

おかげで傍目には友達の多い社交的な人間に見えただろう。
その代わり誰にも本音は言えなかった、いや、言わなかったのか。
フルタイムで自分を作り上げるのに疲れた時は、学校の図書室で時間を過ごす。

本には自分を偽る必要なんてない。

だがある日、馴染みの司書が急に冷たくなった。

理由はその司書の視線と自分に向けられる視線を辿ればすぐにわかったが、その司書の好きな教員が自分を気に入っているという、柴崎にとってはもはやありふれた理由だった。

どうでもいい人間からの好意や下心を適当にあしらうのは慣れたが、今まで笑顔で話していた人間がいきなり敵意を向けてくるのにはいつまでも慣れない。
学校の図書室からは段々足が遠のき、地元の図書館に通う事にした。

人は裏切るけど本は裏切らない。

地方の郊外の小さな図書館だったが、それでもごくたまに良化隊が来た。

防衛員が必死に抵抗していたが田舎だから予算がないのか、高校生の柴崎でもわかる程、明らかに武力の差があり、多くの図書が奪われるのを遠巻きに眺めていた。

何で、あたしには本しかないのに。

言いようのない怒りが込み上げてきたが、柴崎にできる事など何もなかった。

本を守りたい。あたしから本を奪わないで。

運動は苦手だったし防衛員になれるとは思えない。
それに一防衛員にできる事には限界がある。
一人一人の防衛員が良化隊と戦っているからこそ今ここに本があるという事は分かっていたけど、自分にできる事はもっと違う事のような気がした。

あたしがこの情況を変える。
あたしが図書隊を変える。

その為にはどうすればいいのか、手当たり次第に図書隊と良化委員会、メディア良化法の事を調べた。
本や新聞、ネットなどで良化法成立のあらましやその後の図書隊と良化隊の戦闘など、おおまかな事は分かったが、それは教科書に書いてある歴史のように恣意的な目で全体の流れをさらっただけに過ぎない。

こんなのじゃない、あたしが欲しい情報は。もっと核心に触れないと。

機関誌を読み漁った。司書志望のフリをして図書館員に内情を聞いてみた。だがたいした情報は得られなかった。それなりの役職の人間にも接触したが、結果は同じだった。

中には勘違いして口説いてくる館員もいた。それを受け入れればより突っ込んだ情報が取れるかも知れない。
だが、いずれ自分が属す組織の人間だ。下手に深入りすると後で面倒な事態になる事も有り得る。

一人で闘わないと。
どこで誰が敵になるかわからないんだから。

図書大を知った時は既に今年の卒業生で閉校する事が決まっていた。自分の時にあったら何が何でも首席を勝ち取っていたのに。
自分にはもはや不可能となった首席と次席の人物の名前を恨めしく眺め、将来幹部になるに違いないその名前を頭に叩き込んだ。


大学へ進んでも思うように情報は集まらなかった。
手に入る限りの情報をかき集めて少しずつ接ぎ合わせて行く事で全貌が見えてきた。

図書隊が正義の味方だなんて最初から思ってなかった。物事には全て裏がある。からくりがある。
それを押さえれば自分にだって図書隊全体を動かせるかも知れない。

汚いなんて思わない。むしろ自分が手を汚して済むのならいくらでもやってやる。替われるもんなら替わってやるとずっと思ってきたこの顔だが、利用できるならもう厭わない。

その為にはまず上層部へ行かねばならない。トップに立てば図書隊内部よりもむしろ外との闘いになるだろう。政界、財界、有力人物の相関図、血縁関係、あらゆる力関係をできるだけ頭に入れるようにした。


書店でバイトしていたので入荷日には良化隊が来た。
目の前で次々と本が狩られていくのは見るに堪えなかったが他のバイトに逃げようとは思わなかった。

目を背けるな、見ろ、これが現実だ。目に焼き付けて自分に何ができるのか考えろ。

検閲が来そうな日にはあらかじめ本を隠した。あまり多いと不審がられる。見つかっても言い逃れできる程度にするにはせいぜい数冊だ。

今あたしが守れるのはこれが精一杯。でもそのうちもっと多くの本を守る。全ての本を守ってみせる。

本があったからあたしは救われた。
本がなかったらとうの昔に潰れてしまっていたかも知れない。
安寧の地。誰にも侵させない。

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司令室の椅子に深く沈み込んで、柴崎は二十年以上前の自分を思い返していた。

誰も信じていなかったあの頃。
全てを割り切って大人になってたつもりだったけど、一人で生きられると思っていた分、子供だった。

もう一人には戻れない。大事な人がたくさんいる。
だけど弱いなんて思わない。むしろ仲間がいるから走れるんだって。

人は登り詰めたねなんて言うけれど、私に取ってはここから始まるの。

あの頃は本の敵討ちみたいな気持ちだった。今は恩返しかしら。

これが私にできる事。
道なき道をサバイバルしてきたけどまだもう少し終わらない。

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結局柴崎が一番子供だったのかなーと思います。
笠原や手塚はまだ不器用なりにもがいてたけど、柴崎は完全に放棄してしまってたような。
そして一番大人なのは多分毬江ちゃん。