彼女がためらう理由

*手柴(結婚準備中)

式の打ち合わせでの出来事です。

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式を数カ月後に控えた公休日、柴崎と手塚はお気に入りのカフェの一番奥のソファ席を陣取って二人で打ち合わせをしていた。

基本的にほとんど柴崎に任せっきりなので、招待客のリストや座席など以外はほとんど事後報告を受けるのみだが、珍しく相談があると言われ、手塚は首を捻る。

確か先日、郁と公休を合わせて衣装の下見に行っていたはずだが何か問題でもあったのだろうか。

「何かね、あたし達の写真を式場で見せるサンプル写真に使わせて欲しいんだって」

ウエディングドレスやカラードレス、色内掛などの写真を事前に撮る予定にしている。その写真を参考モデルとして使いたいという事らしい。

パンフレットやホームページなど不特定多数に見られる媒体は少し抵抗があるが、その式場で挙式予定のカップルにのみ見せると言うことならそこまでこだわりはない。

「式を予定してるカップルに見せるだけだろ?麻子がいいなら俺は別に構わないけど」
「そう?一応連れに聞かないと分からないって答えといたんだけど、料理の試食に今度行くでしょ?その時に一緒に話聞いてね」

少し迷っているような表情を見せる婚約者は珍しい。情報収集は綿密かつ念入りに、判断は迅速かつ的確にが信条と、事あるごとに言っている。

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予定していた日に式場を訪れると、当日のフルコースを試食した後に担当者に別室に案内され、例の話を切り出される。

「…と言う事で先日柴崎様が御衣装の下見に見えられた時にお話はさせて頂いたのですが」

「いや、自分は彼女が了承するなら異存はないのですが」
「でも光そんなの恥ずかしいって言ったじゃない」

ちょっと待て、いつ誰がそんな事言った!と言う反論は視線で押さえ込まれる。

「そう言われると知らない人に見られるのもなぁってちょっと考えちゃって」

またも煮え切らない態度を見せる。いつもは嫌なら相手に反論の余地すら与えないはずなのにこの態度はどうも得心が行かない。

だが担当者はどうしてもと思っているらしく、柴崎様のドレス姿は本当に素晴らしくて、まるで柴崎様の為に作られたみたいに似合っていらっしゃいます、手塚様も背がお高くて精悍なお顔立ちで、お二人は全てのカップルの理想ですー……などとどんどんお世辞がエスカレートしていく。

辟易する手塚とは裏腹に、衣装担当が、営業担当がと人が増え出し、あれよあれよと大勢に囲まれ是非にと説得される。

それでも迷う柴崎に今度はホテル内のレストランのディナー券などのサービスを持ち出し、最後はほぼ懇願されるような形で承諾する事になった。

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資料の山を持たされる手塚の一方で、足どり軽く式場を後にする柴崎の背中に半分呆れた声を投げかける。

「お前、始めっから断る気なかっただろ」
「えーそんな事ないわよー、だって恥ずかしいじゃなーい」

口とは裏腹に満面の笑みを浮かべる柴崎に、嫌がっていた、いや、正確には嫌がっているフリをしていたのは単に条件を吊り上げる為だったと分かり手塚は肩を落とす。

「……ドレスのグレードアップとブライダルエステとネイルの割引、アルバムとDVD制作までサービスさせやがって」
「花と料理のグレードアップはさすがに無理だったみたいねー」

最後の落とし所としてメイクのつけまつげまでサービスさせた手腕に、改めて敵には回したくないと思った手塚だった。

せめて人をダシにした分くらいは徴収させて貰うかと華奢な婚約者を後ろから抱きしめ、首筋に口付けた。

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終わりです。
多分柴崎&手塚ぐらい見目麗しければ是非モデルに!と言われるんじゃないかと…