縮まらない距離〜鬼教官編

*手柴(革命後、エピローグよりは前)

煮え切らない二人の話、ちょっと長めです。

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「ちょっと手塚大丈夫?女子と飲んで一人で酔っ払うなんてサイテーよ。減点1」

駅前のワインバーを出たところで軽くふらついた同期に柴崎は冷たく言い放つ。

「疲れが軽く足に来ただけだ!今日の訓練かなりキツかったんだよ!」

そう手塚は言い返すが、一度付けた減点を取り消す気など柴崎にはさらさらない。

当麻事件の余韻も落ち着き、亀の歩みながらもやっとの事で愛しの教官への想いを遂げた笠原は、二日と置かずせっせと病院へと通い詰め、堂上が退院してからは公休の度に鏡と散々にらめっこした上いそいそとデートに出掛けている。

あの茨城県産純情娘をからかう新たなネタができたのは面白いが、少し寂しくもあるのか手塚との飲みが増えた。

毎回貸しだの借りだの情報交換だのの名目で、ほぼ一方的に呼び出しているが、最近は手塚の恋愛偏差値向上セミナーと銘打って手塚をからかいつつ奢らせるのが柴崎のお気に入りだ。

先日、思わぬ所から手塚の恋愛遍歴が垣間見えたが、入隊当時の頑なな態度を思えば女に手慣れていないのは丸分かりで、ちょっとつつけばいくらでもボロが出る。
同室で笠原をからかっていたのと同様、結構面白い。いや、普段の出来がいい分こっちの方が余計面白いかも。

「ほらー、ちゃんと車道側歩きなさいよ」
「分かってる!今行こうとしてただろ」
「一回で覚えないと写真撮って売るわよー」
「売るな!」

次までにはちゃんと覚えとくように、とさっさと歩き出す柴崎に、手塚は次も結局奢りかよと独りごちた。

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飲みの時は厳しい柴崎も、基本的に基地敷地内ではただの同僚といった態度を崩さない。
もともと周りに噂されるのを嫌がる上、相手が同期男子で注目度断トツの手塚とあれば尚更だ。

ただ堂上班は例外で、他に人目のないところでは容赦なくチェックを入れている。

館内業務の最中、前が見えない程書籍を抱えた柴崎に手塚が駆け寄って、「半分持つ」と言い三分の二程を取る。

「ありがとう、まあ合格」
「どうも」

手塚憮然とした表情にバディの小牧がクスクスと笑う。

「違う先に入って扉を押さえる!」

扉を開けてやった手塚にもぴしゃりと言い放つ。

「お前こないだは女を先に通すって……」
「内開きは男が後、外開きは先」
「……何か新人のマナー研修みたいだな」
「心掛けは一緒よー、賓客をもてなすように隅々まで気を使わないと」
「……分かりました」

思わず敬語で返した手塚に、少し後ろからワゴンを押してきた小牧の上戸が爆発した。

「いやー、ここにも鬼教官がいたとはね」
「小牧教官も笑ってないでこの朴念仁に女性を扱うテクニックの一つでも教えてやって下さいよー」
「テクニックって言われても……俺は別に計算してやってる訳じゃないからねぇ」
「あら天性なんですかー。じゃ手塚には到底無理ねぇ」

しれっと言い捨てて美しい髪を靡かせ閲覧室に戻る柴崎の背中を見ながら手塚は深く長い溜息をついた。

「業務中までやるなよな…」
「まぁ業務に支障が出てる訳じゃないしね。彼女の求めるレベルは相当高いから大変だろうけど」

大変と言いながらも小牧の顔は完全に面白がっている時のそれだ。

「普通の女子よりって言うより単なるあいつのわがままなんじゃないですか」
「でもカバン持てとかは言わないでしょ?彼女なりに線引きはしてると思うよ」

残り少ない財布の中身を思い浮かべて今月は後何回呼び出されるのだろうかと手塚はまた深く長い溜息をつくのだった。

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ゆるーく続きます。→アイス編