縮まらない距離〜アイス編

*手柴(革命後、エピローグよりは前)

鬼教官編の続きです。

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限定モノが出たからと堂上にコンビニに付き合ってもらい、郁は帰る途中の公園で購入したアイスに早速かじりついていた。

「おいしーい、絶対買いだって柴崎にも言わなきゃ」
「…そう言えば柴崎はどうしてんだ」

いきなりどうと言われても何の話か郁には分からない。アイスだアイスと言われ、以前は柴崎の分まで郁が一人で買いに行き堂上に怒られた事を思い出した。

「あー、どうしてるんでしょうね。ついでだから買ってこようかって聞いてもいっつも要らないって言われるし」

正確にはそんな生易しい言い方ではなかった。

――あんたに買ってきて貰ったら熱すぎて溶けちゃうわよー。それにあたしの分があったらちょっと寄り道していちゃついたりできないでしょ?堂上教官に恨まれたくないもーん。

さすがにこれをそのまま堂上には言えないので、ごっそりはしょって郁は話を続ける。

「部屋でアイス食べてる事もあるんで昼間買ってるのか……」
「夜に買いに行ってる可能性もあるって事だな」

堂上にとって柴崎はただの部下とは言え、人並み外れた容姿で夜中に独り歩きしているとなると心配にもなるのだろう。戦闘職種の郁でも固く禁止されている。

「やっぱりあたしが一緒に買ってくるって言いましょうか」
「要らんと言っとるんだろ、もう一度言っても答えは変わらんだろう。誰か男が着いて行くか、代わりに買いに行くか……」

「でも下心持った奴だったら逆に危ないですし」

――柴崎とそこそこ親しくて、下心がなくて、安心して任せられる人間……

「……手塚とか?」
「しかいないだろうな」

「でもどうやって?堂上教官が言うとか?」
「俺が言ったらあいつは拒否できんだろ、プライベートで上官権限は使えん」

確かに上官命令と言わなくても堂上の頼みなら手塚は断れないだろう。
だが郁が言って素直に聞き入れてくれるとも思えない。

「そうだな……少し小細工が必要か……」

その後は手塚に柴崎の護衛をさせる作戦を詰めるのに夢中で、さっぱり甘い雰囲気にはならなかった。

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手塚が共用スペースで新聞を読んでいると聞き覚えのある声が飛び込んできて、咄嗟に顔を隠してしまう。

声の主は同班の上官と同期に間違いなく、付き合っているのは周知の事だがその甘い会話を聞かされるのには未だに慣れない。

二人は別れるのが惜しいのか、男女フロアの境で立ちっぱなしで話をしている。
こちらには気付いていないようなので、申し訳ないが手塚はこのまま気付かれない様にやりすごす事にした。

「アイスおいしかったです、ごちそうさまでした」
「ああ、良かったな」
「柴崎にもお勧めしときますねー、今からでも買いに行っちゃうかも」

どうやらコンビニに行った帰りらしい。が、もう一人の同期の名前が出て手塚の心臓が少し跳ねる。

「あいつはこんな夜中に外出してるのか。女一人で危ないだろう」
「あたしもそう言ってるんですけど、でもちゃんと人通り見てるし大丈夫だからって言うんですよー」

堂上二正すみません、立ち聞きする気はないんです、と心の中で謝るが、話の内容は到底聞き捨てられるものではなく、逆に耳をそばだててしまう。

――あいつ男あしらいに自信あるせいか、妙に無防備な所あるからな。

「困ったもんだな、誰か着いてってやればいいんだが……」
「えーでも変なヤツだと反って危ないじゃないですか」

それはそうだと堂上の言葉に心の中で相槌を打ち、確かに柴崎を狙ってるヤツじゃ意味がないと笠原に同意する。
それに信頼してる人間じゃないとあいつは同行すらさせないだろう。

「そうだな……とりあえず今日は行くなって言っとけ」
「分かりました!じゃあお休みなさい」
「おう、お休み」

互いの部屋に戻ったらしい二人の気配が完全に消えるのを待って手塚は新聞を下ろした。

――しょうがない奴だな。

同期や近しい人間を手当たり次第に思い浮かべるが、条件に該当する人間は余りいなかった。
堂上や小牧ならクリアしているだろうが、彼女持ちなのに他の女の為にわざわざコンビニまでついて行く事はしないだろう。

ならば自分しかいないか。
自意識過剰かもしれないが、自分なら一応条件に合うだろう。下心が完全にないとは断言できないものの、同意もなしに無理矢理どうこうする気はない。

柴崎に信頼されているかも危うい所だが、手塚の経験値にしちゃやるじゃなーい、などと面白半分でなら受け入れられそうだ。

先程の二人の会話から今日はもうないだろうと推察し、明日からしばらく張り込むかと読み掛けの新聞を戻し、腰を上げた。

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ゆるーく続きます。→アイスのお代編