縮まらない距離〜アイスのお代編

*手柴(革命後、エピローグよりは前)

アイス編の続きです。

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同居人が限定のアイスが久々のヒットだと息巻いていたので、柴崎は後日郁が堂上に呼び出されて出て行った隙に自分もと買いに行く事にした。

郁がコンビニに行く時は必ず堂上と一緒に行っており、ついでにどこかでいちゃついてくるのだろう、いつもは帰ってきても言葉少なだ。

だが、その話の時は珍しく普通にアイスの話を始めたので面食らった覚えがある。
とは言え、ケンカした訳ではなさそうなのでそこまで気には止めなかったが。

財布を手に部屋を出て共用スペースを通り掛かると、新聞から顔を上げた手塚と目が合った。

「外出るのか?」
「別にコンビニ行くだけだけど……何?」

新聞を畳みながら立ち上がった手塚に進路を塞がれた格好になる。この男が人の詮索をするなんて珍しい。

「いや……俺もコンビニ行くつもりだったから。何買うんだ?買ってきてやる」
「え?いいわよ、自分で行くし」

「お前、女がこんな時間に出歩くなよ」
「コンビニくらい平気よ、笠原みたいな事言わないでよ」

郁もいつもコンビニに行くときはついでだから代わりに買ってくると言うのだが、柴崎は丁重にお断りしている。

「お前は笠原と違って戦闘能力ないんだから、心配するのは当たり前だろ」
「ふーん……手塚も心配なんだ?」

適当に言いくるめて予定通り出るつもりだったが、心配と言ったところで少し視線をそらしたのを見て柴崎の気が変わった。

「とにかく、お前が買おうが俺が買って来ようがモノは同じなんだからいいだろ」
「……深夜のコンビニは情報の宝庫なのにぃ」

実はこっちがメインだったりする。人が少ないせいか酒が入っているせいか、普段と違う者同士の組み合わせや意外な姿など結構面白いものが見られるのだ。

あのなぁと溜息をつく手塚は呆れ顔だが、自分にとっては見逃せない情報源だ。

「……分かった。見た事聞いた事、余すところなく全部報告してやるから」
「あらそーお?じゃあお願いするわ、間違えないでね」

しっかり釘を刺してアイスの銘柄を告げ、柴崎は奥の椅子に座って手塚が置いた新聞を広げた。

――深夜の共用スペースも情報の宝庫だしね、両方手に入るなんてラッキーだわ。
なんて思った事は手塚には内緒だ。

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手塚が10分程で指定の品を買って寮へ戻ると、柴崎は自分が置いていった新聞を読んでいた。
その傍らにコンビニ袋を置いて向かいの椅子に腰を下ろす。

「ありがと、アイス代」
新聞を畳んでジャージのポケットを探る柴崎を「釣りないしいい」と制止し立とうとする。

「そんな訳には行かないわよ」
借りの嫌いな柴崎らしい。

「貯まったらまとめて何かで返してくれればいい」
「じゃあキスで払う?」
「んなっ……」

「冗談よ。だけど手塚がそうしたいならそれでもいいわよ?」

人差し指を唇に軽く当てその整った輪郭を少し尖らせる。思わず注視してしまい慌てて「10回で昼メシ1回!以上!!」と言い捨て部屋に戻る。

「……かなり割に合わないと思うんだけどいいのかしら?」

バタバタと男子寮の方へ消えていく手塚の背中を見送り柴崎は一人呟く。

自分ならば手間賃も入れて5回で夜飲み1回とするところだが、と考えながら、アイスが溶けないうちにとさっさと部屋に戻る事にした。

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ゆるーく続きます。→官舎裏編