縮まらない距離〜官舎裏再び編

*手柴(革命後、エピローグよりは前)

官舎裏編の続きです。

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「しっかし二人とも結構いい年なのにあそこまでお姫様扱いするのも珍しいわよねー何のプレイだっつの!まぁ堂上教官はそれもいいんでしょうけどねーー、あーもう手塚、注いで!!」

飲みに行くからと有無を言わさず付き合わされ、基地から少し離れた居酒屋に入るなり柴崎はくだを巻き出した。

先日件の二人の逢瀬に不運にも隣り合わせてしまっただけでもいたたまれないと言うのに、笠原の惚気だか相談だか堂上二正とのメールのやり取りまで微に入り細に入り話し出されたから堪らない。

手塚としては尊敬する教官がメロメロでベタベタな所などあまり耳にしたくない。だんだん話が生々しくなりそうだったので、柴崎のグラスを満たしながら話を変えようとする。

「お前はして欲しくないのか、お姫様扱い」

てっきり柄じゃないと一蹴されるかと思ったが、意に反して柴崎は考えるそぶりを見せた。

「そうねぇー、高級フレンチの後にホテルの最上階のラウンジなんかで夜景を見ながら乾杯、あ、ホテルは最低でもヒルトンのエグゼクティブで」
「そんな金持ってるのは大概オヤジだろ」

それはお姫様と言うより王様じゃないのかと言うツッコミは置いておく。

「あら、そうでもないわよ。一流企業の次期社長とか資産家の御曹司とか」

しれっとした顔で言い放ち、そんな超高値物件でもあっさり陥落してしまいそうな笑みを浮かべる。

「その御曹司とやらに誘われれば着いていくのか」

少しぶっきらぼうな言い方になって自分でもしまったと思うが既に手遅れだ。

「なーにぃ、架空の話に妬いてるとか?」

先程の極上の笑顔から一転、にんまりと小悪魔の笑みだ。もちろんこれはこれで存分に美しい。

「ばっ……何で俺が……」
「まぁ誰でもって訳じゃないけどー」

慌てて否定する手塚を完全に無視して柴崎は話を進め、真顔でまっすぐ手塚を見つめる。

「手塚もアリの方に入るかもよ?ルームサービスでシャンパン付けてくれたらだけど」
「……どこにそんな金があるんだ」

そう言いながらも貯金を注ぎ込めばなどと頭の隅で考え出す自分に軽く寒気がした。

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帰りしなに柴崎が喉が渇いたと言い出したのでコンビニでペットボトルを調達する。

基地に近付きそのまま寮に帰るのかと思いきや、酔いを醒ますから官舎裏で飲むのだと言う。

「だって酔っ払って帰るとか有り得ないじゃない、柴崎麻子のキャラとして」
「あぁそうかよ、好きにしろ」

付き合い切れるか、先に戻ると言うが手塚の同行は既に決定事項らしい。

「女一人であんな暗闇に行かせるなんて、あたしの教育が悪かったのかしら…センセイ悲しいわぁー」
「誰が先生だ!分かったよ、付き合えばいいんだろ」
「最初から素直にそう言えばいいのにー」

口でお前に勝てると思った俺が馬鹿だったと文句は言ったが、あの場所で何もしないように自制するのは心臓に悪いからなんて事は手塚には言えなかった。

官舎裏の中程で空き場所を確保した後、両隣が例の二人でない事をひそかに確認したつもりが、柴崎にはしっかり読まれていたようできっちりからかわれる。

「いいからさっさと飲めよ、酒抜けないだろ」
そうごまかしたが、ペットボトルを煽る白い喉へ目が吸い寄せられ逆効果だったようだ。

いつものジャージとは違い、外出帰りなので身奇麗な格好に化粧もしている。加えてお互いほろ酔いだ。
何かしたくならない方が不思議だろう。

そんな事を考えているのが柴崎に知れればすっぴんでも十分美人じゃなくて?とでも言い返されるのか。
そう言われれば口では反論しつつもそれは確かにそうなんだがと思ってしまうであろう自分は、既に頭のネジが何本か飛んでしまっているのかもしれない。

――こんな事ならいっそのことあのカップルが本当に隣だった方がマシだったかも知らないな。

暗闇で憎からず想う女と二人、周りからは男女の逢瀬が漏れ聞こえてくる。

なけなしの理性を振り絞る手塚の顔を柴崎が覗き込んだ時、靴音が近付くのが聞こえ、手塚は隠すように柴崎を抱き込んだ。

この前と同じように首に腕を回されたが、今回は手塚から唇を寄せる。
二、三度啄むようなキスを落とし、柔らかい唇を軽く吸うと更に強く吸い返された。
バカップルと思わせる為か、前よりも更に激しく音を立てる柴崎の唇に理性が飛んだ。

強く抱きしめ唇を端から端まで舌で何度もなぞる。息をつくため薄く開かれた柴崎の唇に無理矢理舌をねじ込んで貪るように激しく咥内を掻き回した。
また押し戻されるかと思ったが時折息を漏らすだけでそれ以上の抵抗はない。

唇を薄く開けて小さく息を漏らすのは受け入れるサインなのか。

息をつがせないかのようにぴったりと唇を合わせ、そっと舌を差し入れた。
滑らかな舌の輪郭を確かめるように隅までなぞり尽くす。
舌の裏側を這わせると小さな肩が小刻みに震えるのが分かった。

――顔が小さいと歯も小さいもんなのか。
そんな事を考えながら、ひとつひとつの形を確かめるようにゆっくり舌を歯に沿わせ、柴崎が反応する箇所を記憶する。

時折かすかに背中を反らせる柴崎を逃がさないように細い腰を支える腕の力を強めた。
唇を離す度に苦しそうに漏れ出る吐息は間違いなく甘く湿っている。

薄く目を開けると薄闇の中でも鍛えられた自分の目には紅潮した頬と潤んだ瞳がはっきりと見えた。
キスだけじゃおさまらなくなって腰を支えていた手をゆるめた途端、柴崎は突然手塚を引き剥がすと手塚の脇をすり抜け、何も言わず走っていった。

――しまった。
その足で柴崎を追えなくなってしまった自分を手塚は深く深く呪った。

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ゆるーく続きます。→女子寮編