縮まらない距離〜女子寮編

*手柴恋人前(革命後、エピローグよりは前)

官舎裏再び編の続きです。

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突き飛ばすように手塚を拒否してそのまま部屋まで逃げ帰ってきた柴崎は、ドアを後ろ手に閉め明かりも点けずに、そのまま扉を背にずるずるとへたりこんだ。

今日は郁は部屋にいない。
堂上班は明日公休だから堂上と出かけたまま戻ってこないのだろう。

念には念を入れてこの日を選んだ自分の周到さに今回ばかりは感謝する。

業務が終わってからそのまま手塚と出かけた為、カーテンは開けっ放しで月の光でぼんやりと部屋の様子が分かる。
粗忽者の同居人はいつも通り慌てて着替えて出て行ったのだろう、開けっ放しのベッドのカーテンから無造作に突っ込まれたらしき服が覗いている。

お互いの事を想う気持ちがただ漏れのあの二人。その顔を思い浮かべようとしたのに脳裏を過ぎったのは先程拒絶した男の顔だった。

……ヤバい、これは相当ヤバい。
ただの確認のつもりだった、のに。

手塚と飲みに行って。
人目に触れない様官舎裏で酔いを醒まして。
人が来たから擬装のキスをした。
それだけ、ただそれだけでそれ以上の事は何もない。

ホンの確認、だったはずだ。それも決まりきっていた事の確認。

満更でもない手塚をその気にさせてみて猫のようにするっとすり抜け翻弄する、そんなポジションをキープしていたつもりだ。
手塚はそう思っているだろうし、自分も口と表情はしっかりそう振る舞っている。

でもそうじゃない自分がいる事に気付いてしまった。

――手塚が欲しい。

その唇でもっと深く口付けて、その腕でもっと強く抱きしめて、
もっとあたしの奥まで触れて。

身体の奥が熱くなり意識が遠退きそうになりながらも頭の中で何者がこの男が欲しいと叫ぶ。

手塚に触れる度、その声を聞く度大きくなるその声に抗えなくなりそうで、手塚を置き去りにして走って逃げた。

こんなはずじゃなかった。
今更本気で人を想うなんて。

この先恋愛しようが結婚しようが本気にはならないと思っていた。自分は本気になれないと思っていた。
そしてそれでいいと思っていた。図書隊の裏の部分に身を捧げるならその方が都合がいい。

なのに何で今更。

――手塚はどうしただろう。どう思っただろうか。

恋愛沙汰にはてんで鈍い男だが、人の心情全般に疎い訳ではない。柴崎がいつもと違った事くらいは気付いただろう。

冗談口で茶化せばいいのは分かっていたが、いつもの調子で接する自信は少しなかった。


どれくらいの時間部屋の入口で座り込んでいたのか、こうしていても埒があかないと力無く立ち上がり、電気を点けてタンスから部屋着を出す。
とりあえず風呂に行こう。この時間ならギリギリまだ間に合うはすだ。

他人の中にいれば外壁を固めたいつもの自分に戻れる。

風呂の用意を済ませ、手早くジャージに着替えて柴崎は部屋の扉を開けた。

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続きます。→男子寮編
パラレル方向ではなく最後は原作に何となくつながります。