わずかな雪融け

*手柴(婚約中)+慧

手塚家+柴崎の食事会にて

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手塚家に柴崎を招いて何度目かの食事の時に兄の慧が初めて同席した。
知った顔で言葉を交わす柴崎と慧に手塚の父親が怪訝な顔をする。

「おや、二人は知り合いだったのかね」
「いえ、直接業務をご一緒させていただいたことはありませんが、手塚一正は有名な方でしたし、武蔵野第一図書館にも憧れている隊員はたくさんいますから」

柴崎の讃辞に父親がちょっと複雑な顔をする。長年の確執ゆえに息子が褒められたとて手放しで喜べないのだろう。
当然柴崎はその辺の事情は知らぬふりを決め込んでいる。実は殆ど全てを、いや兄弟の心情を含めれば誰よりも一番、事情を知っているというのに。

「そういう柴崎さんこそ美人で仕事も優秀だって評判だよ。他の館でも噂してる奴も多いし」
「そんな、手塚一正にそう言われると恐縮しちゃいます」

「やだなあ、もう家族になるんだからそんな他人行儀な呼び方しないで。義兄さんでいいよ」
「ホントですか?光栄ですー」

和やかとしか言いようのない雰囲気で目の前で繰り広げられる会話に手塚はついていけない。

「何だか気が合うみたいね、良かったわ」

母親が嬉しそうに手塚に耳打ちする。
考えてみれば兄がこの家でこんなににこやかに話をしているのはもう十数年ぶりか。

「まあ二人とも優秀だし、どこか似てるところがあるのかもな」

お互い策士だからな。到底母親にはそんなこと言えないが。
敵同士として一騎打ちでやりあった間柄なのにそんなことは微塵も感じさせない。この二人にかかれば外面を作り上げることなど造作もないのだろう。

すっかり両親に気に入られた婚約者に、和解して久しぶりに実家を訪れた兄。そしてそれを喜ぶ両親。

どこからどう見ても円満そのものなのになぜか自分の中でもやもやしたものが渦を巻いているのを訝しく思う手塚だった。

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終わりです。