ゆめとうつつ

*小毬(婚約中)
クリスマス小話です。



「デザートはフォンダンショコラ、フランボワーズと洋梨のソルベ添え、でございます」
ウェイターが恭しく礼をしたのに軽く会釈を返し、毬江がスプーンを手に取るのを小牧はじっと眺めていた。

「わぁ、おいしいっ。甘いのにすっきりしてる」

自分のデザートに手を付けるのも忘れて見入っている小牧に気付いたらしい、毬江は小首を傾げて小牧に問い掛けた。
「幹久さん?食べないの?」
「あぁ、食べるよ。ちょっと毬江ちゃんに見とれちゃった」
結婚しようと二人で決めてから変えた名前呼びももうすんなり言えるようになったみたいだが、小牧のセリフに「もう、からかわないで」と頬を染める様はいつまでも初々しい。

クリスマスイヴ、二人は数カ月後にに式を挙げる予定の結婚式場でディナーをとっていた。
ホテルではなく中世のお城をイメージした式場でゴシック様式のチャペルが売り物であるが、結婚式専門ならではのきめ細やかなもてなしが気に入ってここに決めた。
翌日のクリスマスは毬江の家で両家揃って食事の予定にしている。両家といっても二人が子供の頃からの付き合いだから格式張ったものではなく親戚の食事にお邪魔する感覚だ。

「でね、お母さんたらクリスマスなのにお鍋とケーキにするんだって」
「そうなの?おばさんの鍋おいしいから俺好きだよ。鍋ってどこも似たような材料なのに全然味違うから不思議だよね」
「そうなんだ……明日お母さんにちゃんと教えて貰おうかな」

近い将来二人で中澤家の鍋を囲む姿を思い浮かべたのだろう、俯き加減ではにかむ姿が何とも可愛らしい。
ここがレストランじゃなかったら今すぐ抱きしめてキスを…などと考えていたら毬江に怪訝な顔をされたので小牧はさりげなく話題を変えた。



レストランの予約が早い時間だったからか、ほろ酔い気分でそこを出れば、来た時とは一変した景色が広がっていた。

「すごい……綺麗……」

欧風のレトロな雰囲気で統一された建物はライトアップされ暗闇のなかに浮かび上がっていて、建物に沿った植栽にはイルミネーションが巻き付けられ、赤青黄色とカラフルに点滅を繰り返している。電飾で形作られたトナカイやサンタクロースも所々に配置されて雰囲気たっぷりだ。

「幹久さん、向こうにツリーもあるみたい」
建物の影で全体は見えないが、チャペル前の広場にツリーがあるのを見付け、毬江の目が輝いている。
「寒くないならちょっと散歩しようか?」
「うん、大丈夫」
小牧は毬江の手を取り、十分堪能できるように光の中をゆっくりと歩き始めた。

広場に近付くに連れ、歌声が聞こえてきた。子供の声だ。
地元の合唱団だろうか、物凄く上手いと言う程ではないが、それがかえってどこかの国に迷い込んだ気分にさせる。ツリーの真下まで辿り着いて首を伸ばして見上げる毬江に寄り添い、後ろからそっと肩を抱く。

暖色系のライトに浮かび上がるチャペル、様々なイルミネーションで彩られた木々、子供達の賛美歌に傍らには愛しい人、と天国があったらこんな感じなのかも知れないと小牧は柄にもない事を思った。

「夢じゃないですよね?」
自分が考えていたのと同じようなセリフが毬江の唇から漏れ、無言で毬江の顔を見つめ返した。
「ごめんなさい、何だか幸せ過ぎて……」
変な事を言ったかと眉尻を下げた毬江を小牧はそのまま何も言わずにぎゅうっと抱きしめた。

今日は冷えるとの予報だったからそれなりに着込んでいるのだろうが、それでも腕の中の毬江は細くたおやかだ。
お城で守られるだけのお姫様じゃない事は分かっているけれど、それでもこの先ずっと、何があろうと自分が守ってみせるという気持ちが込み上げてくる。

「み、幹久さんっ。苦しいよ……」
腕の中で身じろぐ毬江が苦しくない程度に力を緩めたが、回した腕はほどかずに顔を見合わせ、悪戯っぽく微笑む。
「夢じゃないでしょ?」
「もう……幹久さんの意地悪……」
拗ねる毬江の耳元ギリギリまで唇を寄せて一つ一つの言葉を大事にそっと囁いた。

「これからもっと二人で幸せになるんだから、幸せ過ぎなんて言って貰っちゃ困るよ」

家族同然に育ってきてもうすぐ本当の家族になる。すぐにとは言わないがそのうち更に家族が増えるだろう。
家族の形が変わる度、クリスマスの過ごし方も変わってゆくだろう。

それでも一つだけ、変わらない事がある。

――それは隣に君がいること。そんな想いをこめて。

「メリークリスマス、毬江ちゃん」
「メリークリスマス、幹久さん」



終わりです。