次世代へ託して−3−

*柴崎

≪未来話≫≪捏造≫次世代へ託して−2−の続きです。
堂郁&手柴&小毬結婚後

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時間が空いたらちょっと来てくれと稲嶺から伝言を頼んだら、玄田はその日の終業後に早速飛んできた。

「急に呼び立てたようで申し訳なかったですね、急ぐ話ではなかったのですが」
「なーに、書類は全部堂上に押し付けてきたから問題なんざありません」

押し付けてるのはいつもの事だからと全く悪びれる様子のない玄田に苦笑する。
堂上一正もご苦労な事だと稲嶺は先日の若夫婦の顔を思い浮かべた。

何かお困りの事はと聞かれ、先日柴崎が来てくれたから頼める事は全て頼んだと好意に礼を言い、ふと思い出したかのように付け加えた。

「そういえば彼女を見つけてきたのはあなたでしたな」
「あぁ、そういやそうでした」

――彼女達が入隊した時分、実験的に始めた情報部は危うく頓挫しかけていた。

情報部という特殊な部署である以上、能力だけではなく性格や思想、バックグラウンドも考慮せねばならない。
しかもまだ軌道に乗っていない段階での失敗は絶対に許されない為、候補となる人物の個人的な交友関係まで調べざるを得ず、必然的に人材の絞り込みすらままならなかった。

そんな折、新入隊員の話をしていた時に、まだ三監になりたてだった玄田が面白そうな奴がいると稲嶺に二人の名前を上げた。

一人は笠原郁で、身体能力が抜きん出ており本人も防衛部が第一志望である事から、数年前から導入が検討されていた特殊部隊初の女性隊員にどうかと言う事だった。

そしてもう一人が柴崎だった。
履歴書を見せられ整った容姿に公報向きですかと稲嶺が冗談口で言うと、コイツはそんなタマじゃないと笑い飛ばされた。

「噂話が大好きで野次馬根性丸出しの情報屋。そんな風に周りには見られてますが、おそらくそれだけでは終わらんでしょう」

恐ろしく頭脳明晰で教育期間の成績も一、二を争う程。戦闘分野はからきしだから特殊部隊には向かない。だが機転がきいて人付合いも上手いが、意志が強く時折見せる好戦的な態度も情報部向き。

そう自信満々で推す玄田に稲嶺は渋った。

「まだ新入隊員でしょう」
「新入隊員だからですよ」

思想に染まる前の新入隊員から原則派へ教育すればいいと言う事か。だがどちらに転ぶか判らない分、ハイリスクハイリターンな、いわば賭けだ。

「まだ情報部の地固めが出来ていない現状では、原則派になるとわからない人物に情報部の存在を明かすのは得策ではない」
「俺の勘ではヤツは間違いなく原則派になるでしょう。いや、派閥うんぬんを知らんだけで、思想は既に原則派なのかも知れません」

稲嶺の言葉尻を引ったくるように玄田が断言した。
勘と言うがそれが決してただの勘ではない事を稲嶺は知っていた。

「あなたがそこまで言うのなら余程の人物でしょう。すぐに結論は出せませんが、私も彼女と直に話をしてみたい」
「是非そうして頂きたい。そうすりゃコイツがただもんじゃない事はすぐに解りますよ」

「それはそれは。今年は女性に頼もしい人材が多いようだ」
「男は協会会長のボンボンくらいで、後はたいしたのはおらんでしょうな。なんならコイツら二人同室にしますか、一見正反対だが中々面白いかも知れん」

偶然の産物か玄田の策略か、その通り二人は同室となり、お互い伴侶に巡り会った今も無二の親友であるという。


もう十年も前のいきさつを玄田も思い出したのだろう、口元が少し緩んでいる。
だが、そろそろ懐かしい思い出からこの厳しい現在へと戻って貰わねば。

「彼女は図書隊初の女性基地司令を目指しているそうですよ」
「あいつ何て事を……いや、ヤツならあるいは……」

絶句する玄田というのも珍しい。
「私は図書隊最後のというのが付けば尚いいと言い添えましたよ」

玄田は一瞬目を見開き、それから真顔になって暫く黙り込む。

厳つい外見に似合わず玄田は策士だ。今も柴崎が司令となる為に経るべき数々の過程とそれに伴う幾つかの障害を思い浮かべ、それを取り除く算段が頭を駆け巡っているのだろう。

「……どうやら我々が為すべき事が幾つかあるようですな」
「そのようです。そろそろ楽隠居かと思っていましたが、まだまだ私の役目は終わっていないらしい」
「楽隠居なんざ似合いませんよ。あなたも自分も死ぬ時は図書隊としてだ」
「全く、その通りだ」

遠くない将来、戦闘集団としての図書隊はその役目を終える。だが良化隊の残党がきっぱりと攻撃を辞めるとは思えない。
暫くはゲリラ攻撃が起きる事も考慮せねばならない一方、公には図書館が武力を完全に放棄した体をとる必要がある。

柴崎ならその資質は言うに及ばず、様々な機関とのパイプ、新しい図書館をアピールする為のイメージにもうってつけだ。
自信の容姿と性別をそのようにシンボリスティックに利用される事は不本意だろうが、彼女ならその不満もすべて飲み込んだ上で、完璧にその役目を演じ上げる事だろう。

−この目でその姿を見られるだろうか。
自分が存命のうちに実現できる事を願いつつ、稲嶺は一人の病室で固いベッドに背を預けた。

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終わりです。

捏造しまくりです。