梅桃桜〜紅梅ひと挿し〜

*手柴(夫婦)

梅桃桜シリーズ、梅編は手塚家の小話です。

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「おかえりなさい、光」
「ただいま麻子」

公休日だった麻子が玄関で夫を出迎えると細く巻いた新聞紙を差し出された。

「なぁに?」
「土産だ」

受け取って上から覗き込むとふんわりと甘い香りが立ち上ってくる。

「紅梅ね」

深い紅色の梅が一枝、開きかけの花芯が芳しく匂いを放っている。
図書館の庭にも同じ色の梅が植えてある。昨日帰り際に通り掛かった時にはちょうどこのくらいの綻び具合だったはず――。

「光、コレまさか……」
「勘違いすんなよ、不可抗力だ」
「でしょうね、念の為確認しただけ」

よもや夫が公共の樹木を勝手に折るような人間だとは思っていなかったが、一応確認して麻子は安心した。

改めて事情を聞くと、庭でボール遊びをしていた子供を注意しようとした時にボールがそれ、追いかけた子が梅の木に突っ込みそうになり、手塚が咄嗟に手で庇ったものの、勢いで枝が折れてしまったのだという。

図書館に飾る訳にもいかず、捨てるのも勿体ないと手塚が貰ってきたという次第だった。

「そういうことね。子供にも光にも怪我がなくて良かったわ」
「まぁな、子供達も懲りたみたいだし」

さてどこへ飾るかと麻子は器を探したが、花瓶はあるものの合うサイズのものがなく、食器棚から手頃な焼物のタンブラーを出してきて挿してみた。

「なかなか素敵じゃない?」
「そうだな」

花器ではない為少々不安定だが、焼物の風合いと曲がりくねった梅の枝ぶりが合っていて、花束とはまた違った良さがある。

「梅って一枝でも風情があるから様になるわよねー、今度一輪挿し買ってくるわ」

軽くためを作ったりして麻子が形を整えていると、思いの外上機嫌なのが態度に出ていたらしい。

「あぁ、……俺もたまには花買ってくる」

顔を背けてぽつりと素っ気なく言った光の耳朶が赤いのは照れているのか。

女の事で無粋なんて言われたのは初めてだと言われ、へこんでいたのはどれ程前になるだろう、それ以来、苦労しつつ改善に努めていたようだが、短い交際期間で結婚したので光から花をプレゼントされた記憶は麻子にはない。
以前の朴念仁っぷりからして過去に女性に花をプレゼントした事もまずないだろう。

然るにこれが光が女性に初めてプレゼントした花ということになるのか。
麻子は愛おしそうに膨らんだ蕾のひとつを撫でた。

「本当?ありがとう」

夫の顔に手を伸ばし、「光のこういう所も好きよ」と赤くなった光の耳朶に人差し指を這わせると、振り返った光は顔まで真っ赤で、黙れと言わんばかりに唇を押し付けられたのだった。

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光&麻子編でした。
初めて送った花が梅、しかも折れたもの。その無粋さが手塚らしいって事で……