梅桃桜〜桃の花びら〜

*小毬(過去話)

梅桃桜の桃編、毬江12才、小牧22才の春の話です。

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ざあっと急に強い風が吹いてきて毬江は反射的に髪を押さえる。せっかく久しぶりに小牧に会うからと、駅のトイレで必死に髪型を直したのが台なしだ。


母親に駅に着く時間を連絡したら、小牧が来ているから迎えに来てくれると言われた。
就職が決まってからもなかなか小牧は実家には戻って来ず、毬江も会うのは久しぶりだった。

駅の改札を出ると相変わらず優しい笑顔の小牧が待っていて、恋人の待ち合わせみたいだとちょっとドキドキしたのも束の間、「毬江ちゃん、大きくなったね」と頭に手を置かれ、子供扱いも相変わらずだと気分は急降下する。

――いつもこうだ、小牧さんにとって私はいつも子供扱い。
どれだけ年をとってもその分小牧さんだって大人になる。


靡く髪に遮られた視界が落ち着いたと思ったら、はらはらと何かが周りを舞い落ちていった。
気が付くと毬江と小牧の足元に濃いピンクの花びらが散っている。

一体どこからと周りを見渡すと、隣の大きな邸宅の塀の向こうに丸い花がいくつも付いているまっすぐな枝が伸びているのが見えた。

「キレイだね、梅、桜……いや違うな」
「小牧さんったら、桃の花だよ」

毬江と同じ方向を見上げて言った小牧に知った風な口をきく。

「そうか、桃の節句が終わったばかりだもんね。詳しいね毬江ちゃん、さすが女の子」
「もう、子供扱いしないでよ。四月から中学生なんだから」

本当は毬江もついこないだ知ったばかりだ。
雛祭りに母親が買ってきてその可愛らしさに毎日眺めていた。


「桃の花の色ってキレイだよね。私、好きなの」
「そうだね、このピンクの色合いはまさに女の子の色だね」

毬江ちゃんに似合いそうだねと言われて頬が熱くなる。
小牧に見られないように下を向くと、アスファルトに散らばった花びらが目に入った。

しゃがんで拾おうとするが、踏まれていたり濡れていたりで手に取れるようなものはない。

と小牧がちょっと待っててと言い置いて塀に近寄り、風が吹くのに合わせて何やらジャンプしている。
しばらく経って戻ってくると、毬江の目の前で丸く合わせた両手を少しだけ開いて見せた。

「はい、毬江ちゃん」

毬江が中を覗き込むと、空中でキャッチした花びらが三枚。
一枚ずつそっと取り出し、自分のハンカチを取り出し丁寧に挟んでいく。


「行こうか。遅くなったらおばさん達心配するよ」

小牧が差し出した手を毬江は躊躇いがちに握り返した。

――いつか違う関係で小牧さんとこんな風に手を繋げる日が来るんだろうか。


小牧に貰った桃の花びらはすぐに萎れてしまったけど、あの時二人で見た桃色の景色はいつまでも記憶に残っている。

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終わりです。

今よりちょっと子供っぽい二人を心掛けましたが上手くいきません……

桃編を一番先に思い付きました。
タイトルにもある通り、大塚愛の「桃ノ花ビラ」を聞いててこれは毬江ちゃんだ!と思いまして…歌詞とは全然関係ないですが。