梅桃桜〜お花をあげましょ桃の花〜

*堂郁(夫婦)

桃=郁バージョン=です。
毬江バージョンとは絡みません。

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「あっ桃の花!篤さん買ってもいい?」
「いいぞ。そういや、もうすぐ桃の節句だったな」

基地近くのスーパーの生花コーナーではしゃいだ声をあげた妻に堂上は目を細めた。

たまには家でゆっくりする公休も良かろうと夫婦水入らずで存分にくつろぎ、夕方になってから買い出しに出て来ていたのだ。

レジ前のワゴンには雛祭りの関連商品が山積みになっており、イベント好きの郁は目を輝かせている。

「ひなあられ、菱餅も買っちゃおうかなー」
「お前、食いもんばっかだな」
「そんな事ないですよーだ、あっ甘酒も買いましょう!」

喜々としてカゴに収めてゆく郁を見ていたら、肝心の主役たる女の子はうちにはいないんだが、という台詞は堂上には言えなかった。

様々なイベントごとが簡略化されていく中でお雛様を買わない家も増えたのだろうか、紙で作られた簡易のお雛様とひなあられ、菱餅がセットになったものを手に取り、郁はふと自身の子供の思い返していた。


桃の節句は嫌いだった。

いつもやかましい母親の「女の子は女の子らしく」が更にヒートアップするからで、いそいそとお雛様の支度をする母親の姿に無言で女らしくない自分を責め立てられているようで、見るのも辛かった程だ。

本当はかわいらしい桃の花もひなあられも好きだったけど、女らしくない自分には似合わないから、と自ら遠ざけていた。

今はそんなことはない。

半ば呆れ顔で郁を見守っている夫をそっと伺って心の中で呟く。

あなたがいてくれるから。
あなたが女の子の私を見つけてくれたから。


「ママー、おひなさまー」
「お雛様はおうちに飾ってあるでしょう?ひなあられだけ買おうね」
「はーい」

郁の傍らの紙雛を小さな女の子が指差し、母親らしき女性がひなあられのパックをカゴに入れた。

「あかりをつけましょぼんぼりにー、おはなをあげましょもものはなー」

「篤さん」
「何だ?」

母親と手をつなぎ雛祭りの唄を歌いながら遠ざかる女の子の背を見送って、ふと浮かんだ想いを告げると堂上は郁の頭を撫で、にっこりと微笑んだ。

「女の子、欲しくなっちゃいますね」
「そうか」

郁がその堂上の笑みの真意と自らの失言に気付くのは、官舎に戻り夕食を済ませた数時間後。

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終わりです。