梅桃桜〜桜雲の切れ端〜

*堂郁+特殊部隊の面々。

梅桃桜〜桜雲〜の舞台裏、というかそれにまつわる小話です。
もちろん件の絶景ポイントは捏造ですが。

************************

堂上班の連休が明けたその日、特殊部隊事務室は朝から騒然としていた。

長年図書隊で語り継がれ、半ば伝説と化していた彼の地を遂に踏破した者が現れたのだ。

緊急時をも上回るスピードで情報は伝達され、堂上のデスクの周りにはたちまち人だかりができた。

「やったな堂上!」
「お前らならできると思ってたぞ」

集まった隊員が口々に賞賛を送る一方、いつもなら根掘り葉掘り話を聞き散々に囃し立てるはずが、話の詳細を聞くものはあまりいない。

「そんでその……どうだった?」
「笠原、やっぱキツかったか?いや、どうキツかったかは言うなよ!」

数名が怖ず怖ずと切り出したものの、何故か奥歯にものの挟まったような物言いである。

話題に上っている彼の地とは当然、公休日に郁と堂上がたどり着いた桜の絶景ポイントのこと。

その場所はその昔、訓練中に偶然迷い込んだ特殊部隊隊員が発見したもので、図書隊、主に防衛部と特殊部隊に代々語り継がれてきた穴場であったが、到達の困難さから実際に目にしたものはほとんどおらず、真偽も不明のまま脈々と噂が伝えられるのみだった。

そのうち「カップルでたどり着いたら一生幸せになれる」「失敗したら破局する」「たどり着いた者は行き方、写真など一切の情報を漏らしてはならない、破局する」「一人もしくは同性同士で行くと一生独り身」など様々なジンクスが付き、都市伝説さながらの様体である。

先程の隊員達のあいまいな聞き方もその為、下手に聞いて一生独り身になっては堪らないということだろう。

特殊部隊では過去に僅かながら成功者は出たものの、数年前、ある隊員が防衛部の彼女と試みて失敗、直後に破局に至ってからは訪れようとするものすらいなかった。

「でも、先輩達なら行けない場所じゃないと思いますよ?」
「俺らはな、問題は相手だろ」
「山猿と付き合う訳にもいかんしなぁ」
「ちょ山猿て!無礼千万!!」

朝から鍛え上げた猛者どもに囲まれて暑苦しい堂上とは対照的に、手塚は我関せずを決め込み、自分のデスクに向かって仕事の算段を整えていた。

先程まで隊員達にキャンキャン噛み付いていた笠原はうっかり余計な事まで喋りそうになって集団から弾き出され、自席に近寄れない小牧と雑談をしている。

「まぁ、達成するなら堂上と笠原さんしかいないとは思ってたけどねー。噂通りキレイだった?」
「はい、もう凄かったです。想像以上っていうか、想像を絶するって感じで」

「へぇー、それは毬江ちゃんにも見せてあげたいなぁ」

小牧が手塚も見知った年下の彼女の名前を上げる。
が、あの華奢な女の子には無理なんじゃなかろうか。

――まあ、自分には関係のないことだ。自分にはそれ程までに見事な桜を見せてやりたい相手もいないし、一生幸せになりたい相手もいない。

脳裏に浮かびかけた人影を頭の隅に追いやり、手塚は自分自身にも気付かなかったふりをした。

「そうですねー、でも毬江ちゃんには難しいと思いますけど」
「そうだね、俺達なら負ぶって行くしかないかなぁー、でも毬江ちゃんに野営はさせられないし」

――そう、ハードな行程をこなすなら最低でも防衛部ではないと。業務部の女子には無茶もいいとこだ。
いや、業務部の特定の誰かを指した訳ではないが。

「そういえば柴崎さんとはその話、した?」

心なしか小牧の声が若干大きくなり、自分に話し掛けられたような気がしてどきりと手塚の心臓が跳ねた。

「昨日したんですけど、そのうち大金持ちになってヘリをチャーターして行くから、だそうです」
「ははっ、柴崎さんらしいね」

――らしいと言えばらしいが、それじゃ相手の男の立場が全くないんじゃ……
いや、俺には関係ない関係ないからな!

誰にともなく手塚は心の中でひとり自問自答を繰り返す。

「もう始業時間ですからとっとと散って貰えませんかね!」と堂上が群がる隊員を追い払いにかかっていると、事務室のドアが派手な音を立てて勢いよく開き、玄田と緒形が入ってきた。

「なんだぁ、朝から賑やかだな」
「おう聞いたぞ堂上、よくやった!」

「隊長もですか……」

いい加減げんなりした顔の堂上をよそに玄田は声高らかに宣言した。

「今日は堂上と笠原の祝賀会だ、予定のない奴は全員参加しろ!!」

緒形が眉をひそめて「隊長、溜まった書類は」と苦言を提したが、地響きにも似た隊員達の歓声に掻き消されて玄田には届かなかった。

************************

おまけ1終わりです。