行くな!シリーズ〜あたたかなぬくもり〜

*小毬(革命後)

行くな!シリーズ小毬編です。

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つい今しがたまで夢を見ていたはずなのにその内容はさっぱり覚えていない。
でも夢なんてそんなものだろう。
自宅以外で迎える朝は何度目だったろうか、寝起きと共に訪れる身体の怠さにももう幾分か慣れた。

まだはっきりと定まらない視界一面の肌色は焦点など合わなくても愛しい人のものだと分かる。 一晩中腕枕をしてくれていたらしい、腕が疲れてなければいいけど。

浴衣越しに触れる人肌の温かさとホテルの糊の効いた滑らかなシーツ、備え付けのシャンプーは同じ香りを二人にまとわせているはずだ。
少し顔の角度を変えてすぐそばの寝顔を見ようと試みるが、通った鼻筋とシャープな顎のラインしか見えない。
一人恋い焦がれていた頃は男の人なのにキレイな肌だと思っていたけれど、こうして誰よりも間近でみるようになって、僅かに荒れていたり小さな擦り傷があったりするのを知ったのだった。
顔と首の境目辺りにまだ癒え切っていない生傷を見つけ、毬江は今更ながらカーテンの隙間から侵入してくる陽光に気付いた。

分厚い遮光カーテンはしっかりとその役目を果たしており、光は窓との間から何とか潜り込もうとする程度だが、その光量だけでも向こう側がかなり明るいのが窺い知れる。

――今何時だろう、チェックアウトは確か十時だったよね。

毬江が朝慌てなくてもいいように、レイトチェックアウトのサービス付きプランを予約してくれている事もあるが、今回はそうではなかったはず。

目の前の鍛えられた胸板は規則正しく上下を繰り返している、まだ熟睡しているようだ。
疲れているのかも知れない。

いつも支度はすぐ済んでいるから時間ギリギリに起こせば間に合うだろう、寝かせておいてあげようと一人そっとベッドを抜け出して先に身支度を整えることにした。

毬江の身体を包み込むように首と腰に回された腕は、温かく心地良く離すのが勿体ないが、しっかり寝入った恋人を起こさない為にゆっくりと解こうとする。が、思いの外その力は強く、なかなか動かす事ができない。

後ろ手で力が入らない上に身体を回転させる事もかなわないこの体勢でどうしたものかと思案する毬江の耳に、温かく湿った声がそっと置かれた。

「行かないで」

驚いて小牧の顔を見上げるが、瞳は閉じられたままだ。

――寝言、かな。

よくない夢でも見ているのか、腕の強張りが布越しに伝わってくる。

よく眠れていないなら尚更起こす訳にはいかないと、再びこの腕を抜け出る方策を考えようとするが、毬江を包む腕はますます力を強め、痛い程華奢な身体を締め付ける。

どうする事もできずうろたえる毬江の耳に先程よりもはっきりと言葉が届いた。

「もうちょっとだけ、こうしてて」

弾かれるように小牧の顔を見上げると先程とは変わらぬ表情だが、口元が少しだけゆるんでいる。

先程まで一人奮闘していたのが全て知られていたと思うと恥ずかしさで頬が熱くなる。
毬江は見られないよう、小牧の胸に顔を深くうずめたのだった。

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終わりです。
行くな!シリーズこれにて終了です。

小牧だけ起きてたバージョンでした。