海へ行こう

*堂上班&柴&毬

みんなで海へ行こう、のお話です。



「もう夏本番だねぇ、堂上?」

いつものように勝手知ったる堂上の部屋でビールを煽っていた小牧が唐突に切り出した。

「それがどうした」
「夏と言えば何を連想する?」

――何だそれは。連想ゲームか?

だが、小牧がただのゲームごときでそんな話を振ってくる奴ではないことは積年の経験上身に染みて判っている。

――夏、夏と言えば……
脳裏に浮かぶのは愛しい恋人。代謝がいいせいか、暑がりで目を離すとすぐに手やら足やらを出している。白く滑らかな肌に目のやり場に困る事も多々あるのだが、当の本人は全く自覚がないから余計に厄介だ。

「面白い顔してるね、班長。何を思い浮かべてたのかなぁ」
「人の顔を面白いとか言うな!」
「だって本当に面白いし。頬が緩んだかと思えば眉間に皺寄せたり、幸せだけど困ることって何だろうねぇ?」

下手に反論して余計弄られるいつものパターンになりかけたので、適当な答えで言い繕う。

「夏と言えば、そろそろ夏休みで普段と利用者の層が変わるからそれに応じた警備を考えんといかんな、そんぐらいだ!」

そんなカタイ事考えてる顔じゃなかったけどね、と笑いを噛み殺しながら小牧は答えをさらっと言ってのけた。

「夏と言えば彼女と海でしょ?」
「そうかじゃあ思う存分行ってこい」

毬江と付き合うまではそんな惚気たことを堂々と言う奴じゃなかったと随分驚かされてきた。今回のセリフはそこまでではないが、やはり堅物の堂上には死んでも言えないセリフである。
わざと素っ気なく言い捨ててやったが、自分の主張を通したい時の小牧は意外としつこい、特に自分の可愛いお姫様が関わる案件には。

「二人で行けばいいだろうが。何で合同にする必要があるんだ」
「いや、今日昼休み中に柴崎さんが俺らんとこに来てさぁ――」

食い下がる小牧に堂上が渋ると、小牧はそう言って今日の昼休みのやり取りを話し始めた。



「小牧教官、夏と言えば何だと思います?」
「イキナリだね柴崎さん、心理テストか何か?」
「いえいえそんなんじゃないですー、単なるイメージのハナシですよ」

館内警備で昼休憩を取っていた小牧と手塚のところにどこからともなくあらわれた柴崎がさらりと二人に問い掛けた。

「絶対単なるイメージの話じゃないよな、何なんだよ」
「まぁ手塚いいじゃない、夏と言えば青い空、白い雲、目の前に広がる海ってのがまぁ妥当なとこじゃないの」

「ですよねぇ、じゃあ今度の公休日合わせて海ってコ・ト・で」

また良からぬ事でもと訝しがる手塚と無難に答える小牧。
それににっこりと笑って決定済みの事項を確認するかのように柴崎は告げた。

「はぁ?何だよその話の飛躍」
「俺はいいけど毬江ちゃんも誘っていいかな?」
「もっちろん。端からそのつもりです」

要するに堂上班の四人に加えて柴崎と小牧の彼女であるところの毬江の六人がメンバーとして既に織り込まれているらしい。
しかし、公然のカップルである堂上と郁、小牧と毬江はともかく、柴崎と手塚は所謂男女交際をしているわけではない。

「何で俺なんだ」
「えーだって姫が3人でナイトが2人じゃ数合わないでしょう?」
「そっちは姫なのにこっちはナイトかよ、立場違わないか?」
「まぁ俺は毬江ちゃんを守れるなら何だっていいけどね」

元々柴崎は数に入っていて人数を合わせる為に当然のごとく入れられたことは薄々分かってはいたが、それよりもさらりと言われた小牧のセリフに手塚は絶句した。

――いや彼女を守る為なら何だってやる人なのは知っている、知ってはいるが!

「ほらぁ、これくらいの余裕がないと株下がるわよ」
「べ、別に他人の評価は必要ない。そもそも何処での株だか」
「まぁ、それは色々なソースがねぇ、……知りたい?」
「いらん!」

手塚が受けた衝撃など柴崎は微塵も感じなかったようで、手塚に矛先を向けてくる。その話を手塚に振るのは何らかの意図を隠し持っているのか。

「どうせ俺の参加は始めっから決定事項なんだろ」
「分かってるなら無駄な悪あがきしなきゃいいのに」

満足げににっこり笑った柴崎にしかめっ面を返してやるが、どうせ意にも介していないに違いない。
話が落ち着いたところで「ゴメンちょっとメール」と、小牧が席を外した。おおかた毬江に今の話をするのだろう。

「で本当の目的は何だ」
「何よ本当の目的って」

小牧の姿が館外へ消えたところで手塚は柴崎を軽く睨みつけた。

「どうせまた何か企んでるんだろう?」
「やだぁ失礼ねぇー」

軽くかわしにかかる柴崎だが、そういつも乗せられてばかりじゃないとさらに睨むと下から上目使いで覗き込まれ、口角がきゅっと持ち上がった。
他の人間なら蠱惑の笑みなのだろうが手塚にとっては何かを含んだにやにや笑いにしか見えない。

「そうねぇ、教官達の水着姿の写真撮って売ろうかしら?」
「売るな!」
「じゃああんたのだけで我慢するわ、六四でどう?」
「要らん!俺のも却下だ!!」

水着ならいつもの五割増しはいけるのにぃーと膨れる柴崎はどこまで本気だか解らないから怖い。
そんなもんに付き合えるかと手塚が断固拒否しかけると、柴崎は一言、呟いた。

「みんなで海ってのに行って見たかったの、それだけよ」

にやにや笑いが一瞬だけ止み、ぽつりと零した柴崎に、それなら俺じゃなくて他の人間でもいいんじゃないかなどと野暮な事はさすがに言わなかった。

「今回だけはそういうことにしといてやるよ」
「かわいくないわねー、やっぱり株下がるわよ」
「別に株なんか必要ないって行ってるだろ!」
「はい手塚、もうちょっと声のトーン落として。休憩中って言っても一応館内だからね」

すみませんと頭を下げてから隣を睨むと、嬉しそうにこちらを見上げた柴崎が小牧に見えないように小さく舌を出した。



「何だ、結局発端は柴崎か」

話を聞き終えた堂上は新しい缶のプルタブを開け、口を付けた。

「いきなりで最初はびっくりしたんだけど、俺としては願ってもない話でさ。そりゃやっぱり男として彼女の水着姿は見てみたいじゃない?でも他の奴らにジロジロ見られたくないし。明らかに戦闘職種の男が3人揃ってりゃ流石に寄ってくる奴もいないでしょ?」

――まぁ、確かに道理ではある。イベント好きの郁のことだから海水浴など喜ぶこと請け合いだろう。
ではあるが、郁の水着姿など誰にも見せたくないのが本音だ。
小牧の言う通りちょっかいをかけてくる輩はいないだろうが、遠目でも他の男の目に触れると思うと我慢がならない。
だが、男として彼女の水着姿を見てみたいのも本音だ。

誰もいない二人っきりで水着姿を見る……となるとそれはどちらかと言うとある意味……

「まぁ他の男がいない二人っきりの個室でなら安心だろうけど、それじゃある種プレイになっちゃうしね」
「プレイってなんだ、プレイって!」

皺を寄せて考え込んだ心を見透かしたように小牧がにやにやと堂上の顔を覗き込んだ。

「班長、何をそんなに渋ってるのさ」
「別に渋っとらん。ヤツが水着姿に抵抗がないか考えていただけだ」
「笠原さんはそういうの頓着しなさそうだけどね」
「頓着しとらんから余計困るんだ!」
「ああ、成程」

してやったりと満面の笑みの小牧に失言を悔やむが既に後の祭りだ。

「笠原さんの水着姿、見たくないのー?」

トドメの一言を刺されて、ヤケ酒のごとくビールを煽っていた堂上の携帯が鳴った。この音はメール、しかも郁からだ。
小牧は人のメールを覗き見る奴ではないが何となく表情すらも見られたくなくて堂上は小牧に背を向け、携帯を開いた。

――クソっ。何で自分の部屋でこんなにコソコソせんといかんのだ。

『柴崎にみんなで海行こうって誘われてるんですけど、教官も行きませんか?』

外も中も完全に固められ、携帯を握りしめたまま言葉を失った堂上に小牧がにこやかに確認を取った。

「堂上と笠原さんも決まりって事でいいのかな?」
「わかっとるんならわざわざ聞くな!」

堂上の苦り切った声はさらっと聞き流して小牧は爽やかな顔で携帯を取り出し、メールを打ち始める。

「ちょっと遅かったか、残念」

手を止めてそう小さく呟いた小牧のセリフは聞かなかったことにした堂上だった。



女性陣3人の水着はどんなだろうって思っただけです。
って言っても本文中には出て来ませんが……


後日談(小毬)おまけあります。