そのままの君で

*小毬(恋人)

海へ行こうの後日談です。
小毬だけどほとんど毬江+柴崎です。



「小牧さん、このお店ちょっと見てもいい?」
「いいよ、入ろうか」

ファンシーなキャラクターものやハート、クローバーなど可愛らしいモチーフ雑貨が溢れる店ではほとんどが女性客。カップルもごくわずかにいる事はいるが、彼氏側は居心地が悪いのか、たいがい早く出ようと彼女をせっついているか、店の前で気まずそうに待っているかだ。

小牧と一緒にいる時にこういう店に入ることはあまりなかった。嫌だったら一人でまた来るからと言うと、気使わなくていいよと繋いだ手をきゅっと握られた。

「俺は別に気にしないよ。一人の方がゆっくり見れるんなら外で待ってるけど」

でも俺は毬江ちゃんの隣の方がいいななんて言われると頬が熱くなるのを抑えきれない。
赤らんだ顔を隠す様に毬江は店の入口に身体を向け、繋いだ手を引っ張るようにして店に入っていった。

「最近毬江ちゃんそういう可愛い小物よく買ってるよね」

あれこれ目につくまま手に取っているのを楽しそうに眺めていた小牧が一言、言った。

「子供っぽいですか?」
「そんな事ないよ。可愛いし大人でも好きな人は好きだしね。」

俺が年上だから気を使って持てないのかなってちょっと気にしてたんだ。
さらりと言われたセリフは図星でやっぱり見抜かれてたと恥ずかしいのと悔しいのが半々だ。

ブルー系の様々な色のガラスを埋め込んでステンドグラス風に仕立てたフォトフレームを手に取ると、ある出来事が毬江の脳裏に浮かんだ。



少し前のデートで海に行った時のこと。小牧と同僚の堂上、笠原、手塚、柴崎の6人だ。

柴崎の水着姿を見た時、思わず見とれてしまった。均整の取れたプロポーションと綺麗なブルーが見事に引き立て合っていた。

――大人の女性って感じ。

笠原の水着もスポーティーでこそあれ、引き締まったスタイルと長い手足によく似合っている。

――どっちも私には着こなせないんだろうな。

つい俯いてしまい、新調したての自分の水着が目に入る。
パステルカラーとフリル。女の子っぽいカワイイ水着だ。
柴崎も笠原も小牧だって可愛いと言ってくれた。自分だって気に入ってるし、自分に合ってると思う。

でもこういうのが似合うって事はまだ子供だって事だ。
今の毬江には笠原の水着は、ましてや柴崎のなど似合うはずもない。ムリして着たところでちぐはぐで滑稽だろう。

――小牧さんも柴崎さんみたいに大人っぽい方がいいのかな。

私がもっと大人っぽかったら。小牧さんの周りにいる女の人みたいな大人の女性になれたら。
幾度となく考えた事がまた頭をよぎる。

小牧が柴崎を好きになるとは思ってない。柴崎にも笠原にも優しいし、気遣いもしていたが、恋愛感情とは違う雰囲気だ。
笠原や柴崎が小牧とどうのこうのと言う問題ではなくて、問題は毬江自身。

小牧の背中を追い掛けている間いつだってもっと大人になりたかった。高校生、大学生と階段を上がる度少しは近づけた気がしたが、結局その分小牧も先に行ってしまうだけだった。
その距離はいつも同じ。毬江にとって小牧はいつも余裕があって優しい大人のひとだった。

手を繋いで並んで歩ける間柄になってからもその距離は変わらない。いや、むしろ小牧といる時間が増えた分、小牧の周りの人もよく見えるようになった分、その差がくっきりと二人の間に横たっているのがわかる。

そして実際に目の前にいる大人の女性二人と比べ、どうしようもなく自分が子供に見えて仕様がなかった。
せっかく皆で遊びに来ているのだからと気にしない振りをするものの、 やはり所々で思い返してしまい、小牧に心配されてしまう。

小一時間程遊んだところで休憩でもと小牧と堂上、笠原が飲み物を買いに行くということで毬江は柴崎、手塚と荷物番をする。

いそいそと日焼け止めを塗り直す柴崎と雑談をしながらも視線はどうしても滑らかなその肌へと吸い寄せられてしまう。
女同士でも見惚れるようなキレイな白い肌、整った容姿は今更言うまでもないが、普段の業務中では判らなかったウエストのくびれも丸いバストの膨らみも大人の女性の魅力が惜しみなく溢れている。

――いいなぁ。

心の中でそっと呟いたつもりだったのだが柴崎が首をかしげたことで、声に出してしまっていたと気付く。

「コレ?毬江ちゃんも使う?結構いいわよー、肌に優しい処方だし、保湿成分も入ってるし」

脈絡のない毬江のセリフを柴崎は日焼け止めのことと思ったらしく今しがた塗り終えたチューブタイプの容器を毬江に差し出した。

「いえ、あのそうじゃなくて」

柴崎さんが大人っぽいからつい見とれちゃって、私は子供っぽいから、小牧さんは大人だから余計自分が幼い気がして、などと胸の内を思わず吐露してしまった動揺から言わなくてもいいことまで言ってしまう。

柴崎の勘違いのまま日焼け止めを借りておけば良かったと気付いたのはもうほとんど話し終えたところで、自分でも顔が赤いのが判るし携帯を出す余裕もない。多分もう声の調節もぐちゃぐちゃだ。

「あの、あたしトイレに……」

いたたまれなくなってその場を立とうとした時ふわっと温かくて柔らかい、そして爽やかないい香りに包まれた。

「毬江ちゃんかわいーーー」

柴崎に抱きしめられたと気付いた時には目の前に柴崎のキレイな瞳が迫っており、同性だというのに思わずドキっとしてしまう。

「わかるわかる、つい相手に合わせちゃうのよねー、社会人と付き合ったらOL風にしてみたり、スポーツマンだったらやたらカジュアルになっちゃったり」
でもそれが相手の好みだとは限らなくて結局失敗したりするのよねー、結局出会った始めの普通の格好が一番良かったりして。

毬江に一言も喋らせずに怒涛の勢いで喋った柴崎は既に過去を振り返り遠い目をしている。
ガールズトークのノリで茶化しながら喋っていたが言わんとするところは何となくわかった。

毬江は毬江。変に背伸びしてみせるよりそのままの方がいい。
そもそも子供の頃からずっと一緒なのだから今更少しくらい大人ぶったところでタカが知れている。

頭では分かっていたけど素直に飲み込めなかったことが心の中にすとんと落ち着いた気がした。

毬江の表情が変わったのが見て取れたのか、目配せをして柴崎が続ける。

「大人びた格好なんていっくらでもできるようになるし、て言うかそのうちそれしか似合わないようになるしね。
今は今しかできないカッコしといた方がいいわよー。あーあ、こんなセリフが出てくるなんてもう年なのかしらねぇ。
あ、小牧教官がそういう趣味があるかは判らないけどね」

そこまで一気に喋ってから柴崎はしまったと言う風に口に手を当てる。
「やっだ、こんな事毬江ちゃんに言ったなんて小牧教官に知れたら殴られるかも」
柴崎は「内緒ね」と悪戯っぽくウインクをしてもう一度毬江をキュっと抱きしめた。

「いくら同性でもその体勢はいただけないなぁ」

突然後ろから降ってきた聞き慣れた声に毬江が慌てて振り返ると、小牧がアイスと飲み物を両手に眉をひそめていた。
勿論、本気で怒っている訳ではないのはすぐわかる。

「ぎゃっ!柴崎、あんたまた百合に走ってーーー」
「だって毬江ちゃんカワイイんだもん」

毬江に覆いかぶさらんとしていた柴崎は血相を変えた笠原に引っぺがされ、頬を膨らませている。

「盛り上がってたみたいだね、何の話?」
「秘密です」

いつもの優しい笑顔で問い掛けた小牧に毬江は柴崎と声をそろえてそう答えたのだった。



結局先程のブルー系のものは止めて、クローバーをモチーフにしたグリーン系のものを買うことにする。小牧が買ってくれると言ったが丁重に辞退して自分でレジまで持って行った。

「この間の海の写真、飾ろうかな」
「いいね、早くプリントアウトしないと」

店員が慣れた手つきで丁寧に包装していくのを眺めていると小牧に耳元で、新しい水着、よく似合っててホント可愛かったよなんて言われて再び真っ赤になってしまった。

――ゆっくり、ゆっくり。願わくばちょっぴり早くあなたの隣に相応しいオトナになれますように。



終わりです。
おまけあります。