海へ行こう&そのままの君で〜おまけ〜

*堂上班+柴+毬

海へ行こうそのままの君でのおまけ3つです。
一番かわいそうなのは……手塚かな。



《おまけその1・手塚、口が滑る》

――コイツが付き合う相手に合わせるとか有り得ないだろ、しかもそれで失敗とかって!

先程漏れ聞こえた柴崎と毬江との会話がどうしても手塚の頭から離れない。
始めはただの女同士の雑談だったのが途中から話が悩み相談めいてきて、しかもそれは毬江にとって予定外に打ちあけてしまったのが丸わかりだったのでできるだけ聞かないように努めてはいたが、毬江を慮ってか柴崎は声を大きめに、はっきりと喋っていたので話の中身まで否応なしに聞こえた。
加えて手塚はこの日ナイトというありがたくもなんともない名目で駆り出されているので、その場を離れるわけにもいかなかったのだ。

「何?なんか言いたそうな顔してるけど」

買い出しに行っていた三人が戻ってきた後、堂上と郁、小牧と毬江は休憩もそこそこに波打ち際へと出かけていった。
そしてほとんど水に入っていない柴崎と自動的にそのガード役となった手塚が残されて程なく、手塚は柴崎に問い詰められることとなったのだった。

「いや……別に」
「嘘。どうせさっきの話が意外だとか思ってたんでしょ」
「……まあな」

こんなところで嘘をついても仕方がない。
自ら美人だと言い切っている上に普段の強気な言動からは男に付き従う姿など想像もできないが、そもそも過去の恋愛遍歴を打ち明け合う間柄でもないのだから知らなくて当然だったのかも知れない。

「交際相手に迎合するなんてらしくないとか、この容姿端麗かつ眉目秀麗な柴崎麻子さんが恋愛事で失敗するなんてとか思ってたんでしょ」
「途中から辞句の選択に問題があるが、主旨は概ね違ってない」

色々突っ込み処はあったがいちいち指摘すると延々ループするので割愛してざっくりと同意する。

「ま、そんな頃もあったのよー昔の話だけどね」
「言い回しが年寄りじみてるぞ」

「ひっどーーい、妙齢の女子捕まえて年寄りだなんて」
「さっき自分でも年だって言ってただろうが」

言葉尻を取られて話が妙な方向に滑る。あまり良くない話の流れだ。

「自分で言うのは良くても、人に言われると腹立つのよねー、女の子の話を立ち聞きしたのに加えてこれは贖ってもらわないと」
「ちょっと待て誰が立ち聞きしたんだ、あんだけ大声……は仕方ないとしても至近距離で喋ってたんだから嫌でも聞こえるだろ!」

反論を試みる手塚だが柴崎の弁舌に敵うはずもなく、どうにか手塚に立ち聞きの意図はなかったのを確認させるところまでが精一杯で、その日の晩飯はしっかり奢らされるハメになったのだった。



《おまけその2・手塚、失言》

昼を過ぎてしばらく遊んでから、朝早くから出てきた事だしシャワーが混む前に帰ろうという話になった。
シャワーと着替えを済ませて集合し、小牧が実家から借り出してきた車へと向かう。

「帰りは自分が運転します」

そう申し出て手塚はキーを受け取ろうと小牧に歩み寄った。
しかし、小牧はキーを渡さず、何故か少し困ったような笑みを浮かべている。
行きは小牧がほとんど運転したから帰りは自分が、というのはそんなにおかしな事か?プライベートだから階級は抜きにしても慣れた者で均等に、というのが順当だろう。
戸惑う手塚の横から堂上が小牧に告げた。

「悪いが俺達は最寄りの駅で下ろしてくれないか」
「了解、手塚達は?寮まで送る?」
「いえ、自分は――」

毬江以外は基地内の寮だし、毬江は基地近くに住んでいる。わざわざ別れて帰る意味がわからない。堂上と小牧の意図が掴めず返答に困っていると、柴崎に脇腹をひじでかなり強く突かれた。

「あんたバカ!?空気読みなさいよ」

――空気!?何の空気だ?

抗議がてら柴崎を睨んだ時にその隣の郁が目に入り、そこでやっと気付いた。
手塚を直視しないようにそむけた顔は明らかに赤くて、手塚と柴崎以外はカップルでデートの帰りに行くところと言えば聞くまでもない。

向かい側の小牧からはくくっと押し殺した声が聞こえてくる。どうやら上戸のスイッチが入ったようだ。

「……っし、失礼しましたっ」

そう言って頭を下げた手塚はそれ以上何も言えなかった。

「すまんな、手塚」

場を取り繕うように置かれた堂上の言葉も手塚にとっては追い撃ちでしかなかった。



《おまけその3・郁、割りを食う》

小洒落たレストランで夕食を済ませ、疲れただろうからと早めにチェックインしたホテルで、堂上の酒のつまみと一緒に買い込んだ菓子を郁が物色していると、シャワーを済ませた堂上が隣に腰掛けた。

「そういえば郁、ひとつ疑問に思っていたことがあるんだが」
「へっ、何ですか?」
「今日海で、お前柴崎に『また百合に走って』って言ってただろう?」
「はい、言いましたけど」

皆で出かけた海水浴の最中に、郁達が買い出しから戻ってくると柴崎が毬江に抱きついていたのだ。
同室で柴崎の本性にも馴れた郁ならともかく、相手は毬江でしかもあんな人込みの中で、と慌てて引っぺがした時に郁が言ったのが件のセリフである。

「そのまま解釈すると、柴崎が以前、郁に対して『百合に走った』事があると取れるんだが違うか?」
「えっ、えっと……違いはしないですが……百合って言ってもそんな、たいしたことはされてなくて」

思わぬ方向から堂上に突っ込まれて郁は受け答えがしどろもどろになる。
本当にたいしたことはなく女同士のふざけ合いレベルだが、堂上に変に誤解されては困る。

「たいしたことないってどの程度だ」
「えっと、今日みたいに抱きつかれたりとか、そんな程度です」
「そんな程度か。他にはどんなことだ」
「えっ……」

その他も似たり寄ったりだが、口で説明するのは何とも恥ずかしい。

「『百合』の意味は何となくわかるつもりだが、あんまり俺が明るい分野じゃないからな、できればやってみせてくれるか」
「ええっ!今、ここで、ですか?」
「そうだ。お前らのことだ、どうせ寮の相部屋でだろう?ここなら個室かつ二人っきりで条件的には申し分ないと思うが」
「や、それはそうなんですけど」

話が飛躍するにつれて郁の動揺もどんどん激しくなる。
やましい事など決してありはしないが、それを再現するのは口で説明するより数倍恥ずかしい。

柴崎役を郁がするのだから、郁が堂上の頤に手をかけて……そこまで想像したところでもう限界だ。

「……もしかして俺に対してできないようなことを柴崎にされたのか?」
「いえっ、そんなんじゃない、ですっ」

あまりの郁のうろたえっぷりに違う方向へ堂上の心配がいってしまったらしい。
あらぬ誤解をされない為には今ここでやってみせるしかないのだろう。

「なら問題ないだろ、とっととやって見せてくれ」
「………はい」

スペースある方がいいかとベッドに連れていかれ、真ん中に差し向かいで座ったまではいいが、そこから身体が動かない。

――アレをやるのかベッドに膝詰めで、しかもあたしが柴崎役、すなわち堂上教官で教官をあたしに見立ててーーーーー!!!

郁の心の絶叫空しく、きっちり堂上相手に再現させられることとなるのだった。



終わりです。
時間かけた方が余計恥ずかしくなるよ!とその3の郁へ。