ファーストキス〜ファイターパイロットの君より〜

*堂郁&手柴(別冊2後)
!!!未来話注意!!!

「ファイターパイロットの君」の冒頭を持ってきてみました。



*堂郁(結婚後)

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「みゆちゃんちはねぇ、はじめてのデートの後にパパのお部屋だったんだって、あやちゃんちは学校の帰りにブシツ?でだったんだって」

「ねえねえ、パパとママは?」
「えぇっ、とぉーー……」

パパとママが初めてチューをした場所、である。

今日びの女の子はませている。それは郁も図書館に来る子供達と接してある程度分かっていたが、こんなコトが流行っているとは。

「ねぇーママぁ」
「ちょっと待ってねぇ、ドコだったかなぁーー?」

もちろん忘れてなどいない。忘れるはずもない。
だが、子供に公開する情報としていかがなものか。それに子供に公開することはその親、つまり官舎住まいの同僚達にも公開することに等しい。

――ええーっと、あんまり具体的には話せないよね、端的に端的に!
任務中に本屋のバックグラウンドで。ダメだ、余計ダメだ。

ちらりと横目で壁掛け時計を見る。まだ夫である堂上は帰ってこない。帰る際デスクに山と積まれた書類を目にしたから残業が長引いているのだろう。
堂上にとっては余り思い出したくない話だろうが郁よりはるかに頭の回転の早い夫なら何かいい回避方法を思いつくかも知れない、しかしその手段は使えなさそうだ。

――その次は?
お見舞いに行った時に病院のパパの部屋で。ってこれもダメじゃん。
じゃ退院してからなら?夜に官舎裏で。コレもダメだ。

ない頭を必死に働かせるが何も思い浮かばず、煙が出そうになる。
何でこんな時に篤さんいないのよ!とこの場にいない夫に八つ当たりしたところで名案が浮かぶはずもなく。

先程まで大きな瞳をキラキラさせて郁の返事を待っていた愛娘が今は不安そうに眉尻を下げている。
友達みんな知っているのに自分だけが教えて貰えないのではと不安になったのだろう、その目が潤む前にと郁は必死に脳味噌を絞った。



「で、結局何て言ったんだ?」

帰宅後、晩酌の時に郁が例の質問を話しているのを堂上はビールを片手に聞いていた。
郁は相伴できないのでアイスをかじりながらのお供である。

「大使館に行った後、本屋さんの裏でって」

どうにか任務中と言うワードを外そうと思いついた結果だ。本屋はどうしようもなかったが、部室や部屋といった個室でないのは隠し様がない為、下手に濁すより言ってしまうべきかとこれも悩んだ末の結論だ。

お前の頭でよく思い付いたなどと褒めているのかけなしているのかよくわからないセリフでも言われるかと思いきや、夫は俯いて眉間を指で押さえている。

「お前、あいつの遊び友達がほとんど官舎の子だってこと分かってるのか」
「えっそれは勿論」

まだ就学前だし当然官舎の子と遊ぶ事が多くなる。今日の質問に出てきた子も同じ基地内の官舎住まいの子達だ。

「その父母は当然図書隊の同僚で、俺達はそこそこ名の知れた特殊部隊隊員で、例の当麻先生の事件は図書隊員なら誰でも知っている歴史的な事件だと分かってて言ったのかと言っとるんだ」
「えっ…………ええっ」

一瞬何のことかわからなかったが、自分の言った答えと堂上の言葉が頭の中で結び付きその意味を理解して郁は盛大に叫んだ。
が、瞬時に察知した堂上によってその口は塞がれ、明日から広まる噂に余計な尾鰭がつくことは何とか免れたのだった。



*手柴(結婚後)

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「みゆちゃんちはねぇ、はじめてのデートの後にパパのお部屋だったんだって、あやちゃんちは学校の帰りにブシツ?でだったんだって」

「ねえねえ、パパとママは?」

娘の思わぬセリフに麻子は食事の仕度をしていた手を止め、あどけない顔で見上げる我が子を見詰めた。

イマドキの幼児はオソロシイわねぇ。
どんな子供の難題にもさらっと笑顔で答えてきた麻子だったが、今度ばかりはなかなか言葉が出てこない。

――不審者引き渡し後に潜入していた寮の空き部屋で。

ありていに言えばそうなるが、そんな情報を公開したらどうなることか。

結婚してからは独身時代程あからさまなものはなくなったが、それでも図書隊切ってのエリートコースを夫婦揃って突っ走り見た目もそれなりにいいとなれば何かと人口に上りやすい。

「ママどうしたの?忘れちゃったの?」
「忘れるわけないわよ、パパとの大切な思い出だし。でも二人の思い出だからパパが帰ってからにしよっか」
「うん、わかった」

どちらに似たのか造作の整った顔でにっこりと笑う娘は早くも美人の片鱗を見せていた。



「で、俺に押し付けることにしたわけか」
「やーねぇー、相談しようと思っただけよ」
「どうだか」

待ちくたびれて寝てしまった娘の顔を見てから手塚は扉をそっと閉める。

「無難に付き合ってから初めてのヤツじゃダメだったのか?」

一応それも初めてと言えば初めて、別に嘘はついていないはずだ。

「屁理屈でごまかすなんて光も悪知恵が働くようになったのねー、ちょっと悲しいわ」
「口車に関しては向かうところ的なしのお前に言われたくないな」

ひどーいと言いつつ手塚をぶつふりをしながらも麻子が全く怒っていないのは顔で分かる。

ま、それも思ったんだけどあんまりしたくなかったのよね、あの三回をなかったことにするみたいで。

緩急混ぜて投げてくるのは今でも変わらない。
耳が赤いのを隠そうと手塚が俯くと、視界いっぱいに麻子の美しい顔が現れ、唇に柔らかい麻子のそれが触れた。

「そういうことだからよろしくね、パパ」

そう言い置いてひらりと逃げようとした麻子をつかまえて、強く抱き寄せる。
軽いキスだけじゃ割に合わんと深く口付けをしながら何だかあの時みたいだと手塚は頭の片隅で思った。

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終わりです。

クジラの彼を読み返していてふと思いつきました。