野戦のココロエ−その4−

*特殊部隊。完全捏造イベントですが、時期は危機くらい。
ラブ要素は中盤にちょっとだけで殆ど無し。狩猟関連の記述があります。
未読の方は−1−−2−−3−からどうぞ。

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湿った臭いのする方向を目指して山深くへと郁は歩を進める。勿論支給された地図も確認するが、嗅覚と触覚、肌に触れる感触が意外と頼りになる。
柴崎あたりに言わせると山猿の第六感とでもなるのかも知れないが、郁としては田舎遊びの賜物程度を落とし処にして貰いたいものである。

程なくして沢に出た。ひんやりと澄んだ空気が心地好い。
辺りに人影は見当たらないが、下流に目を向けると魚釣りをしている隊員が幾人か伺えた。即席でこしらえたらしき糸を垂らしている者、本格的な竿を持ち込んでいる者、膝まで浸かって手掴みに挑戦する猛者などを一通り見渡しつつ、任務遂行のポイントを探す。

――秋の山菜って何があったかなぁ、新芽モノは春だし。根菜か年中採れるものか……ゆりね食べたいけどあれって結構手間かかるんだっけ?

兄達と遊び回った山とは距離こそ離れているものの、気候としてはそれ程違わない筈だ。採れる種類や自生する場所もだいたい同じだろう。
道すがら見付けた茸類を入れてきた袋は結構な大きさになった。採り過ぎないように気を付けたつもりだが、人が入らない場所故荒らされる事もなかったのだろう。

沢から少し上った場所にアタリを付け、くまなく観察する。幾本かの細い陽光が射す川岸にせり出し生える緑の一群に郁は狙いを定めた。
折り重なる枝葉を擦り抜けて注ぐ柔らかい光を求め、競り合うように草木が茂っている。目的外のものを傷めないように丁寧により分けてから土にスコップを突き立てる。地中で絡み合った根を切るようにざくざくと刺し株ごと引き抜こうとするが、これがなかなか抜けない。
足を踏み締めると滑りそうで思うように力を込めることもできず作業は難航した。

「どうした笠原」

湿った枝の折れる鈍い音と共に上官の声が試行錯誤する郁の耳に届く。

「堂上教官」

郁が顔を上げると木切れを両脇にかかえている堂上と目が合った。燃料を調達した帰りらしい。

「いえ、コレ意外と固くて」
「それを抜くのか」

大量の木切れを置く場所が見当たらないのか、堂上は辺りを見回している。郁を手伝うつもりのようだ。
こんな湿ったところに置いたら使い物になると郁は慌てて堂上を制す。

「教官大丈夫です、あたし一人でできますから」
「そうは言ってもお前……」

下調べの時点では全く役に立てなかったのだ、各自分担の仕事を手伝わせて堂上を煩わせる訳には行かないと株に覆いかぶさるようにして両手で根元を掴んだ。

「根元はぐらついてますから、一気に引っ張れば」
「おい気をつけ……」

地面を思い切り踏み締めた瞬間、ずるりと嫌な感触で足が滑る。
足元の悪い湿地だからこそ踏ん張れずに今まで手こずっていたのだ、何も考えず全体重を掛ければぬかるんだ土壌ごと河原へ落ちるのは当然だ。
先程までしぶとく居座っていた株はあっさりと抜け、ありがたくないことに河原へのダイブにお供してくれるようだ。

ーーあーあ、結局情けないとこ見せちゃったな。

依然落下中だというのにそんなことが郁の頭を過ぎる。
堂上には迷惑をかけたくなかった。小牧だったら二人の方が早いとありがたく助けて貰っていたかも知れない。
自分で何とかしようと焦った結果がこのザマだ。

最後の悪あがきとばかり、手を中空に泳がせたところで落下が止まった。

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続きます。→−5−
中盤が長めになってしまったので全7回、あと3回たいしたヤマもオチもなく終わります。