野戦のココロエ−その6−

*特殊部隊。完全捏造イベントですが、時期は危機くらいです。
ラブ要素は中盤にちょっとだけで殆ど無し。狩猟関連の記述があります。
未読の方は−1−−2−−3−−4−−5−からどうぞ。

尚、当作に於ける狩猟、採集、訓練等の記述はあくまでも「それらしく」書いているだけです。多少の下調べはしていますが裏付けや専門的な調査は一切行っていません。

くれぐれも参考になどなさいませんように。

*******************

郁が調達した品を持って戻ると、手塚が持ち帰った茸類を判別してしているところだった。

少し離れた場所に堂上が置いていったらしき砂だらけの木切れが並べてある。細いものは強い日差しを受けて既に乾きかけている。薪割りが必要な太いものも濡れているのは表面だけだからそのうち乾くだろう。
これなら大丈夫そうだと一安心し、郁は作業中の手塚に話し掛けた。

「ただいまー、結構キノコ見かけたから採ってきたんだけど」
「ああ、お疲れ。そこに置いてってくれたら調べておく」

三つの山に分けられているうちの一つを手塚が指し示した。判定待ちの山なのだろう。

「こっちが食べられるやつなの?」
「そうだ、こっち側が食べられない方だ」

郁は判定済みの二つの山をじっくり見比べてみたが、違いはよくわからない。何となくのイメージだけを頭に入れ込んだ。最終的に本で判断すれば問題ない。

「じゃあ食べられるのをまた見つけたら採ってくるね」
「……一応頼むが、戻ってきたら俺が確認するからな!勝手に混ぜるなよ」

「そこまで信用ないかっ」

疑いの眼差しを向ける手塚に噛み付いてからはたと向こう側の人だかりに気付く。何かを取り囲んでいるようだが人垣でよく見えない。

「何アレ」

郁の差した方向をちらと見遣ってから、手塚はああと低く呟いた。

「猪だ」

短い台詞の意味するところをしばし考えて、郁は作戦会議中の玄田の言葉を思い出した。この辺りに猪が出没すること、仕留める許可が出ていることを。
果敢にもチャレンジする班が幾つかあったのは知っているが、堂上班では手を出さないと決めた上、郁に余裕が無くなる事態が連発したのですっかり頭からは消え去っていた。

「凄いね」
「まぁ、失敗した班の方が多いみたいだがな」

改めて郁は一群の方へ視線を向ける。他班の隊員が群がっているが、中心にいるのは狙撃に長けた班のようである。なるほどと納得したのも束の間、その先の行程に疑問が浮かぶ。

「でもこんな所でどうやって調理なんて」
「他班の免許持ってる先輩に捌いて貰うそうだ」
「え、他班なのに?」

そう都合よく班内に免許持ちがいるはずもないが、料理対抗戦といっても戦と名が付くからには一切妥協はしないのが特殊部隊の面々だ。むざむざと敵に塩を送る真似をするとは思えない。

「肉と引換えらしいな、ギブアンドテイクってとこだろ」
「へー、そういう協力はアリなんだ」

金銭や後日の代償を絡めるのは不可、あくまでこの場限りでの交渉なら可、らしい。それならば協力する側にも利がある。しかしみんなで交換し合ったらそれはそれで班対抗の意味がなくなるような気もする。
その辺をぽつりと零すと手塚はこれは自分の推論だがと言い置いてから言葉を続けた。

「食材調達だけじゃ活かせる能力が限られるしな、交渉手腕も試されるって事なんじゃないか」

自班の弱点を如何にリカバリするか、アドバンテージを武器に他班とどれだけ差を広げるか、多角的な戦略が求められるという事か。

「単なる隊長の思い付きじゃなかったんだ」
「さあな」

手塚の返答は予想に反して、はっきりしないものだった。隊長の無茶っぷりを散々見せられた賜物かも知れない。
じゃあ更なる調達にもうひとっ走りと飛び出そうとした郁を手塚の一言が引き止めた。

「言っとくが調理は協力不可だからな」

足引っ張んなよと言われて思わず返す言葉に迷った郁が視線を逸らすと、堂上と小牧が別々の方角から戻ってくるのが見えた。二人とも大荷物を抱えている。
成果は上々のようだ。

これ幸いと郁は二人の調達品を見に走るが堂上の眉間にはくっきりと皺が寄っていた。

「……小牧それはどうした」

むきだしの果実を大量に抱えた堂上と違い、小牧の戦利品は根菜を中心にバラエティ豊かだがどれもこれもみなビニールに入っており、山中で収穫したものとは思えない。

「銃器使用許可範囲からは外れてたんだけど採取可能エリアに公道がちょっとだけ含まれててさ、ちょっと遠いけど気になって行ってみたら地元の無人直売所だったんだよね」
「へーそんなのあったんですか」

さすが小牧と言うべきか。山中に自生しているものではないだけに、後々レシピの調理の幅が大いに広がるだろう。
感心する郁とは対照的に堂上の顔は渋いままだ。

「しかしお前……まさか」
「そんな物騒な顔しないでよ、俺が黙って取ってくるワケないでしょ」

訓練中は私物は一切持たない規定で、現金もまた然りだ。
言わんとすることは小牧にも分かったらしい。

「安心しなよ班長、『特殊部隊隊員のお客様へ』って張り紙がちゃんとしてあってさ」

購入する品名、数量、所属班名を記入して代金を入れる箱に入れるよう書いてあったらしい。

「隊長なりの隠しアイテムってとこかな」

みつけた人だけのお楽しみだね、と言いながら小牧は全員の調達してきた食材を整理しながらテーブルに並べていった。

種類こそ野菜と山菜と果実に限られるがその中でもバラエティに富んだ品々と豊富な数量が見映えよく並べられている。
料理自慢の芸能人が腕を競うテレビ番組さながらの品揃えに、郁は採り尽くしてはならないが余裕があるなら人数分よりも多めに、と言われていたことを思い出した。

「さ、ここで相談なんだけど、「野菜中心の腹一杯食ってもヘルシーな献立と、手に入れうる全ての食材を網羅した豪華な献立、どっちがいい?」

にっこり笑う小牧にもはや口を挟む余地などなく、交渉は全て任せて他の三人は調理の下準備に入る。
堂上は薪割の支度、郁はその隣で食材を洗う。

「小牧教官、物々交換はオッケーだって読んでたんですね」
「それはちょっと違うな」

全て計算ずくとしか思えない小牧の行動に反する堂上の言葉に思わず手が止まる。

「え」
「小牧なら当初の規定が不可でも口先八丁で認めさせただろうな」
「そ、それはそうかも……」

任せといてと意味ありげな笑みを浮かべ出かけていった小牧は味方にすれば頼もしい事この上ない。
すっかり楽観してしまった郁は、先ほどの手塚の台詞を痛感する事態が待ち受けている事を失念していた。

********************

続きます。次でラストです。→−7−