野戦のココロエ−その7−

*特殊部隊。完全捏造イベントですが、時期は危機くらいです。
ラブ要素は中盤にちょっとだけで殆ど無し。狩猟関連の記述があります。
未読の方は−1−−2−−3−−4−−5−−6−からどうぞ。

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「つまらん」
「は?」

普段の訓練と違い慣れない作業で悪戦苦闘する隊員達を本営で眺めていた玄田が零した言葉に、緒形は所見を書き留めていた手を止める。
玄田の視線の先を追うと、首尾よく交渉を進め班に続々と新たな食材を持ち帰る小牧の姿があった。

「事前の情報収集、各自の能力を活かした役割配分、班内のフォローから交渉力まで、多岐に渡り申し分ないと思いますが」
「それがつまらんと言っとるんだ」

堂上班の好調は当然予測されていたことだ。
少しでも危険なものには手を出さない慎重さはプラスともマイナスとも取れるが、のちの交渉に自信があった為とも取れる。

「んなこた、こんな茶番をやらんでも端から分かっとることだ」
「そうは言われましても」

不機嫌そうに繰り返されても緒形にはどうすることもできない。その旨を伝えるとふと玄田の眼光が鋭く光った。

「なぁ緒形、野戦にはイレギュラーが付き物だろ?」
「は?……まさか」

にやりと笑う玄田に不吉な予感がする。長年玄田の無茶に付き合わされた経験を合わせれば予感ではなく確信だ。

「行くぞ緒形サポートに回れ!」
「しかし考査は」
「そんなもん査察班に任せとけ」

言うなり緒形の返事を待たずに玄田は椅子を蹴り飛ばして本営を飛び出していった。



「もういい!お前は刃物に触るな!」
「うわぁ予想以上だね」
「不器用にも程があるだろ」

畳み掛けて降ってきた言葉に郁は包丁を手放しすごすごと退散する。

まがりなりにも特殊部隊の紅一点、見様見真似で何とかなると思っていたが、他の三人はそれなりに料理ができるようで、それなりにできる人物からは郁の手つきはとても見ていられない有様だったらしい。

「笠原、お前は薪を割ってくれ」

そう言われて郁は堂上と薪割りを交代する。最初は手こずったが斧を入れるポイントさえ掴めれば意外と力は要らない。
郁が順調に薪を割っていると手塚がため息まじりに呟いた。

「お前なぁ、いくら女離れしてても野菜の皮剥くより薪割る方が上手いってどうなんだよ」
「うるさい」

いちいちトドメを刺す手塚に一喝して口を開きかけた堂上にも反す刀で噛み付いた。

「そんなんじゃ」
「いくらあたしだって貰ってくれる人くらい!」
「……そうかそれは悪かった」

そんな奇特な輩がいるわけないだろうなどと一蹴されるかと思いきや、あっさり発言を翻す堂上に郁は拍子抜けする。

別方向からの視線を感じて振り向くと小牧と手塚がこちらを見ていた。手塚に至っては目を見開いて驚愕の表情である。

「お前……男いたのか」

人は見かけに寄らないとはまさにこの事だなとひとりごちる手塚に自分の発言の意味するところにようやく気付いた。

ーー今のもしかして彼氏いる宣言!?

郁としてはそんなつもりは露ほどもなかったが受け取り方によっては『貰ってくれる人くらいいる』イコール『決まった恋人がいる』となる可能性もある。

堂上もそっちに受け取ったのか、今の反応を見る限りその線が濃厚だろう。

「いや違うっ男とかそんなのいるわけないですし、そもそも」
「……わかった」

みなまで言うなとばかりに郁を制する堂上に畳み掛けようとした郁だが、手塚の呆れ返った口調に思い止まった。

「お前そこまで必死に否定するのもある意味情けないぞ」
「……だって誤解されたままっていうのもなんだし」

逆の誤解ならまだしも、恋人がいないのにいる振りなどと見栄張りにも程がある。
紛らわしい言い方すんなと手塚には腐されたがひとまず誤解は解けたようなので良しとしておく。

向こう側で上戸に入った小牧は見なかった振りをして、郁は一連のやりとりを忘れるべく、薪割りに没頭することにした。




「よし、時間だ!!」

しかし数刻のちに玄田の大声で行程を終了するまでなんだか気まずい思いをするのだった。



審査員用に器に盛った料理を携えるという有り得ない風景で隊員達が本営のテント前に整列する。料理評論家よろしく並ぶ審査班の面々を更に凌駕する異質な光景がそこにはあった。

緒形と玄田、その後ろに控える猪の丸焼き。

「どうだお前等、これこそ野戦の醍醐味だろう!」

場が水を打ったように静まり返る。誰も言葉は発しないがその胸中は一様だった。

――なんであんたが参加してんだ!!



結局猪の角煮、魚の塩焼き、具沢山のけんちん汁から山菜のお浸しまで山の恵みフルコースだった堂上班が一位なしの二位、という結果に収まり、全員での試食タイムが繰り広げられた後、風変わりな特殊訓練は恙無く終了したのであった。

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終わりです。