ミッションインポッシブれ!―1―

*堂郁(恋人期間)
郁の適正酒量のお話です。

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所用を済ませて特殊部隊事務室へ帰る途中、名前を呼ばれ堂上が振り返ると猫が笑っていた。
いや、正確には猫のような笑みを浮かべた部下であり笠原の同室かつ親友である柴崎が立っていたのだが。

挨拶を交わした後、柴崎は整った笑顔と共に堂上に小さな火種を落とす。

「そう言えば教官とのデートではあの子あんまり酒飲まないそうですね」

郁と堂上とのデートの様子やその後のアレコレがどれだけ克明に柴崎に知られているかは考えるだけでも空恐ろしいが、確認を取るのもそれはそれで恐ろしい。
「女の子同士で秘密なんてないに等しいからねー」などと小牧のような悟りの境地には到底立てやしない。

「俺は少しなら飲むがあいつはほとんど飲まないな、いや飲めないと言った方が正しいか」
「じゃ笠原が酔っ払ってるのって見たことないんですね」

タスクフォースの飲み会でも飲んだと思ったら潰れてるから酔った姿という定義には当て嵌まらないだろう。

「まぁ、飲んでないか潰れて寝てるかどっちかだな」

ふうんと一人で納得する柴崎に嫌な予感はしたが、こと郁の話題となるとどうでもいいと一蹴もできない。

「酔っ払った笠原、かーわいーんですよぉ」

ふふっと手を口に当てて微笑む柴崎に、郁のはにかんだ笑顔がポワンと堂上の脳裏に浮かんだ。

思ったことがすぐ顔に出る直情型の郁だけに、何かしてやる度にほろほろと溢れ出る笑顔が酷く可愛らしい。ただ、男女事に慣れていないのと女の子らしい事に苦手意識が強いせいで言葉で表現をしたりわかりやすく甘えてきたりということはない。

恥じらう郁の表情もそれはそれで魅力的ではあるのだが、たまには遠慮せずに思いっきり甘えて貰いたいもんだと常々思っていた。
程よく酔っ払えばその辺のこわばりもなくなるのだろうか。

「適量、お教えしましょうか?」
「いや、いい」

堂上の頭の中を読んだのか、ニヤニヤと嬉しそうな笑顔で取引を持ちかけてきた柴崎を、「話はそれだけならさっさと業務に戻れ」と追い払った。そのココロは高くつきそうな予感がしたのが半分と、何故か少し誇らしげな柴崎に先手を取られて悔しいのが半分といったところか。

事務室へと足早に向かいつつ、でたらめに酒が強く女性向けの弱い酒などほとんど知らない自分を初めて恨めしく思う堂上だった。





「郁、これはどうだ?」

公休前日、夕食を終え予約していたホテルへ移動する途中、コンビニでお菓子を物色中の郁に堂上は声を掛けた。

「……お酒、ですか?」
「ああ、だがさほど度数は高くないし、ジュースで割れば濃さは自由に調節できるだろ?」

いかにも女性向けといった風情のフルーツが色とりどりに描かれたラベルを掲げて見せたが、郁は少し躊躇する様子を見せる。

「でも、飲みすぎたらまた寝ちゃうかも……」
「気にするなと言ってるだろう、その為に店じゃなくホテルで飲むんじゃないか」

頭に手を乗せるとまだ気にはしているようだが小さくこくりと頷いた。

柴崎から持ちかけられた怪しげな取引は蹴ったものの、その後外泊の度に堂上は『酔っ払ったかーわいーい郁』を再現する為、試行錯誤を繰り返していた。

とりあえず女同士の部屋飲みではそこそこ酔っ払えているということなので、その時飲んでいる酒の種類、量などを聞き出し飲ませてみたが気づくと郁は寝てしまっている。
炭酸が悪いのか、はたまた入っている酒の種類によるのかと何度も試したものの寝落ちされて終わるということが続いていた。

もう新人じゃないんだからそろそろ自分の酒量をコントロールできるようになってもいいんじゃないか、それに、周りの奴等みたいに程良く酔っ払ってみたいんだろ?

とってつけたような堂上の提案に嬉々として乗ってきた郁だったが、さすがに毎度寝落ちとなると申し訳ない方が先に立つらしい、今回失敗するようなら郁からもう辞めると言い出しかねない状況だった。

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続きます。→ミッションインポッシブれ!―2―