ミッションインポッシブれ!―2―

*堂郁(恋人期)
ミッションインポッシブれ!―1―の続きです。

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――また失敗か。

ソファに座っている郁の姿勢がだんだん傾いできたのを見て、堂上は本日の撤退を決断した。

「郁、大丈夫か」

下から顔を覗き込むと目はとろんとして焦点が合っていない。寝入るまであと僅かだろう。

「眠いんだろう?ベッド行くぞ」
「ん……きょう…かん?」

椅子から立ち上がり腕を取った堂上の呼び掛けにも僅かに顔を上げて目をしばたたかせるのみだ。

ほんのり染まった頬と無防備な唇が可愛くて、そのまま顔を近付けてキスをする。アルコールのせいか眠いせいかすぐに息が上がったようで、開かれた唇から舌を進入させゆっくりと郁の咥内を探った。

郁も応えようと堂上の舌を追い掛けるが、やはり眠いのか動きはいつも以上に控えめだ。

名残惜しいがゆっくりと顔を離すと目を開けた郁と目が合った。
キスだけで顔を真っ赤にしてまっすぐにこちらを見つめるその初々しさはいつまで経っても変わらず可愛らしいが、理性をフル稼動させる今の堂上には目の毒でしかない。

と、そこで郁の様子が違うことに気が付く。
ぱっちりと目を開いて堂上を見上げるその顔はさっきまでとは明らかに違う。その瞳はしっかり焦点が合って……いると言うか、これは目が据わっているという表現が相応しい。

「きょーかん」
「な、何だ」

目を見据えたまま、ずいと寄ってきた郁に堂上は思わず身を引いた。

「……好き、です」

ぽつりと零したかと思いきや、そのそばから郁は目を伏せて恥ずかしそうに俯く。必然的に堂上の目の前にあらわになった耳から首筋には紅色が広がっている。
コロコロ変わる郁の様子に全くついていけていない堂上だが、ただひとつ分かるのはそれが爆発的に可愛いと言う事だ。

そう言えばこういう睦事の際に、郁がまっすぐ堂上の顔を見ることすら稀だということに気が付く。恥ずかしがって顔を背けるのを堂上が追いかけ唇で阻止するのがデフォルトだ。

堪らず堂上は郁の唇に自分のそれを押し当てた。先程の加減など忘れて舌を差し入れる。わずかな隙間から苦しげに漏れる吐息も煽情的で、郁の舌を、歯を、弱い場所を容赦なく責め立てた。

「ん……待っ…て」

弱々しい制止の声も服の上から腕を掴む細い指の感触も堂上を抑制するには何の力にもなっていない。こんな状況で止められる男がいたらお目にかかりたいものだ。

「やっ」

力ずくで引きはがされて不満気に郁を見下ろすと首から上を赤く染めた郁が堂上を見上げていた。

「教官はあたしのこと、その、好き……ですか」

洋画のごとく痒いセリフを惜し気もなく撒き散らしたりはしていないが、堂上としつは不器用なりに郁を大事にしてきたつもりだ。
しかもこのような場所でそれなりのことを済ませた間柄でそこを疑われているなどかなりツライ。

「わからないか?」

そんな心情が滲み出たのか、素っ気ない口調で聞き返すと郁は少し唇を尖らせて目を伏せた。

「わかってます……いつだってすごく優しいし、あたしみたいなのもちゃんと女の子扱いしてくれて、それにご飯だって何だっていっつもあたしのこと優先してくれて、それにふと目が合ったときの目がすっごく優しくて」

それにそれにとたどたどしく上げていく郁の言葉にこちらが痒くなる。しかし、先ほどの質問とは内容が正反対だ。

「分かってるのに何で聞くんだ」
「分かってても聞きたいこともあるんです」

ちゃんと言葉で言ってほしい時もあるんですと小さな声で呟かれれば、照れ臭いなどと言って濁すのは卑怯というものだろう。

俯いた郁の顔をこちらに向かせ、綺麗に澄んだ瞳をまっすぐ見つめた。

「郁、お前の事が好きだ」
「ホントですか?」
「本当だ」

「こんな女らしくなくて戦闘職種大女でもですか?」
「ああ、お前がいい」

「あたしも堂上教官、だいすきです」

今度は郁も顔を背けはしない。
まっすぐ目を見つめられそんな事を言われるともう我慢できなかった。

ソファから郁を掬い上げ細い身体を抱き寄せる。腕を回した腰は思いの外エアコンで冷えていて、自分の熱を移すかのごとくしっかりと包み込んだ。
目の前の白い首筋に唇を押し付け、耳への道筋を舌でそっとなぞる。柔らかい耳朶を唇だけではんで敏感に反応する郁の身体を更に強く抱きしめた。

熱い吐息を漏らす口元に焦点を定め唇を寄せる。僅かながらも離れる身体がもどかしい。
軽めの口づけでしっとりした柔らかさを堪能していると潤んだ瞳を薄く開いた郁と目が合った。

「きょうかん」
「何だ?」
「今日の教官、かっこいい」

そんな痒い事をそんな可愛い顔で言うなと言う前に次の台詞が来た。

「いや、いつもかっこいいんですけど、今日はいつもよりカッコイイ、というか」

朱く染まった頬と狭間に漏れる吐息にクラクラする。身体が熱く鼓動も速い、まるで酒に酔った様だ。
今日の酒量はビール数本、堂上にすれば素面も同然。酒に酔ったのではない、郁に酔ったのだ。

自分の思考も相当痒いと自嘲する。
到底口には出せないが、郁を前にして思うことはいつも充分痒い事ばかりだ。

――いや、思ってるだけじゃいかんのか。

先程の郁の台詞が頭を過ぎり思い直す。

「郁、お前も可愛い」
「や、そんな、だってあたし……」
「可愛い。だからそんな可愛い顔でそんな可愛い事を言われると自制が効かなくなるだろう?」

そう言うと郁の返答は聞かずにそっと最後の自制心を手放した。

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続きます。→ミッションインポッシブれ!―3―