カミツレショコラ/中編

*堂郁(夫婦)(手柴夫婦・小毬恋人)手柴要素有ります

バレンタインから騒ぎ2話。未読の方はからどうぞ。

*******************

同じ敷地内の自宅へ足取り軽く郁が帰ると堂上は外出からまだ戻っていなかった。夕食は作るからと言い置いて来たのでそのうち戻るだろうと食事の支度に取り掛かる。
菓子作りの買い出しをする際にあれやこれやと食材を買い込んだので夕食もちょっと豪勢である。

出来上がろうかという頃、予想通り堂上が帰ってきた。

「篤さんお帰りなさい、すっごいいいタイミング!ごはんできたとこだから」
「ああ、ただいま」

出迎えた郁に堂上は言葉少なに応えた。どこかしら素っ気なくも見える。

――あたしちょっとテンション高過ぎたかな?

夫の様子に少し違和感は感じたものの、自分のサプライズ作戦が守備良く終わり機嫌の良かった郁はさほど気には留めず食卓へ向かった堂上の後を追った。



「篤さん、コレ」

夕餉を終えリビングでくつろぐ夫の隣に座り、ローテーブルの上にラッピングした箱を置く。
一日早いけどバレンタインのチョコだと言うと堂上の表情が和らいだ。

「味は大丈夫だと思うんですけど」
「まあお前もひところに比べると随分手際良くなったしな」
「もう、昔の話引き合いに出さなくてもいいじゃない」

むくれた郁に堂上はすまん、開けていいかと笑って小箱を手に取った。その様子はいつもの堂上で、さっき感じた違和感はやっぱり気のせいだったのだろうと結論づける。
リボンに手がかかり、ゆっくり解かれていくのをドキドキしながら見ていると、郁の携帯が鳴った。メールの着信音だ。

「誰よこんな時に」
「いいから確認しとけ」

間の悪い事だと携帯を開き受信メールを表示させたところで郁の動きが止まった。

――え。

固まること数秒、のち冒頭の胸中絶叫に至ることになる。



十分ほど時を巻き戻した頃、手塚家でも柴崎と手塚が夕食を済ませたばかりだった。

「ごちそうさま。仕事から帰ってごはんがあるっていいわね」
「お前それは結婚したての男のセリフじゃないのか、それに寮なら食堂行けば毎日メシあったろ」

公休日だった手塚が作った夕食を平らげて満足げに箸を置いたところに水を差され、柴崎は分かってないとでも言うように小さく溜息をついた。

「それとこれとは違うのよ、我が家にあったかいごはんと愛しのダンナ様が待ってるってのがね」
「……まあ家事は分担しないとな」

にっこりと微笑みかけられ自分の妻だというのに手塚はつい目を反らしてしまいう。正論で一言返すのが関の山だ。からかい半分だと分かっていても、惚れた相手に笑顔で甘い言葉を投げられて平然としていられる男がいるだろうか。
口でやり返すのは諦めて手塚は食卓を立った。

「今日はデザートもあるから」
「光がデザート?」
「作ったのは俺じゃない」

珍しいと次に続くのは判りきっていたので先手で否定しておいて、手塚は冷蔵庫に閉まってあったものを取り出した。

「笠原と中澤さんから、今日のお礼だそうだ」

食卓の上に置かれたのは大きめの直方体と小さな立方体が二つ、綺麗にラッピングもされてある。

「お礼なんていいのに」

そういいながらちょっと嬉しそうに柴崎は毬江から二人へという大きめの箱の包装を解いた。
中はシンプルなチョコレートケーキ、見たところビター風味だろうか。小牧の好みに合わせてあるのだろう。

取り分け用のナイフと皿を取りに柴崎がキッチンに立った間に、手塚は小箱の一つを手に取った。郁からは二人に一つずつと聞いている。
リボンを解いて箱の蓋を開けると高級チョコレートのように一つ、図書隊の階級章が詰められていた。とはいっても大きさは本物の二倍ほどのチョコレート製、台座のチョコレートにホワイト、ビターの二色で階級章が描かれている。手先の器用な郁ならではの発想だろう。

柴崎と手塚は郁と共に先の昇任試験で三正に上がっている。図書正からは階級章にカミツレの紋様が入る。閉じた本の上にカミツレの花が三つ。

――三つ?

「あんたいつ一正になったの」

キッチンから戻ってきて手塚の手元を覗き込んでいた柴崎の言葉通り、三正の階級章はカミツレは一つだ。三つ付くのは一正である。

「あいつ……バカだバカだと思ってたけどまさか階級章間違うほどバカだったとは」
「えーでもこっちはちゃんとカミツレ一つになってるわよ?」

うなだれる手塚にいつの間にかもう一つの小箱を開けていた柴崎がそう告げた。
いくら笠原がバカでもあたしと光の階級が同じ事くらい分かってるでしょ、と夫婦揃って酷い言い様だが、郁が階級章のカミツレの数を間違ったという説はこれで否定された。

「……ということは」
「まあそうでしょうね」

郁が階級章を間違えてはいないのなら、これは本来一正の人物に渡すべき一正の階級章である。そして郁がバレンタインのチョコレートをプレゼントする一正など一人しかいない。
無言のうちに二人の中で結論が出たところで、手塚が血相を変えて小箱を掴み椅子から立ち上がった。

「どこ行くの?」
「決まってるだろ!」

ここに一正の階級章がある以上、郁は間違えて三正の階級章チョコを持ち帰っているはずだ。
郁が堂上に渡す前に一刻も早く取り替える必要がある。

「バレンタインは明日だしまだ渡してないかも知れないじゃない」
「それはそうだけど、今日渡す可能性もない訳じゃない」
「渡しちゃってたらもう遅いし?それにしても器用よね」

飴細工か飾り切りでも習ってみたらどうかしらと手塚とは対照的に柴崎は落ち着き払っている。

「あんたがそんな顔して乗り込んでけば逆にバレちゃうかも知れないでしょ」

とりあえずメールでもしとけばと言われて手塚もようやく上げた腰を下ろした。

「それにしても本命とただの礼と取り違うか?」

そもそも同じものを渡すもんなのかと手塚はまだ郁の迂闊に得心がいかないようだ。

「まあそれはサブだし」
「サブ?」
「メインにもう一つ作ってるんでしょ」

本命と義理が同じなんてあの乙女思考ムスメがするわけないじゃないと見てきたかのように柴崎は断言した。
至って平静だったのはそれが分かってたからかと拗ねる手塚の顔を見上げふふっといたずらっぽく笑う。

「ねぇそれはあたしのチョコより優先すべき事案なの?」

答えは既に出ているも同然だ。
すぐ済ますと手塚はメール一通入れるべく携帯を手に取った。

**************

続きます。→後編