繋ぐ

*郁+柴(革命中)

当麻事件中の女子寮での郁+柴崎です。

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――触れる掌、絡まる指の感触、ちょっとした重みにほんのり伝わる体温。

「ねえ柴崎、手を繋ぐってちょっと特別な感じがしない?」

脈絡なく投げられた郁の言葉にテーブルの向かい側で一緒にテレビを見ていた柴崎がこちらを向き、その整った顔を傾げた。

「頭を撫でるとか肩を触るとか、相手に触れる行為自体は色々あるんだけど『手を繋ぐ』ってのは他のとはちょっと違う感じがするんだよねぇ」

何だろう、上手く説明できないんだけどと郁が首を捻っていると、柳眉を寄せ少し考える風だった柴崎が口を開く。

「そうねぇ、手は人間の身体で一番皮膚が厚く鈍感にできてる一方で全身に繋がる神経が集まってるとも言われるから、まあ特別、ということもなくはない話なのかしら?」
「……何か座学受けてる気分になってきたんだけど」

何やらコムズカシイ説を打ち出した柴崎に郁の脳が拒絶反応を示す。数分後には眠りこける事間違いなしだ。
いやそういう生物学的医学的な話じゃなくてさーと郁は柴崎の講義を遮りこたつの上に顎を乗せた。

「じゃあ情緒的な話で言うなら、双方の合意がないとできない行為だからってのはどう?」
「合意?」

方向は変わってもまたまたおカタい単語に郁の眉間に皺が寄る。柴崎は郁の目の前で手をひらひらと振った。

「って言うと大袈裟だけど。頭を撫でたり肩に触ったりは一方的にできるけど、手を繋ぐのはお互いそうする意志がないとできないじゃない?一方的だと掴む、になっちゃうし」

双方向の意志疎通の代替行為って所かしらね。

相変わらず柴崎の言葉は座学の講義のようだったが大筋は郁にも何となく判った。

「ふーんそっかー、お互いの意志、ねえ」

柴崎の説を振り返りながら、郁は改めてまじまじと自分の手を見つめてみる。
確かに自分が相手の手を握るだけでは『掴む』だ。そこから相手が握り返してくれて初めて『手を繋ぐ』は成立する。

きゅっと相手が握り返す感触を思い出すと心臓が跳ねるとともに何だか安心する。
相手も自分とこうする事を望んでいる事を実感するからかも知れない。

――てことは手を繋ぐことはそのまま心が繋がることに通じるのかな。

……いや繋がってないから!確かに手は繋いだけどカモフラージュの為だから、任務のうち!
でもカモフラージュの為ならポケットの中でまで繋ぎっぱなしの必要はない、かも……。

そう、繋いだ郁の手ごと上着のポケットに突っ込まれた後、その中でも堂上の手が離れる事はなかった。


――触れる掌、絡まる指の感触、ちょっとした重みにほんのり伝わる体温。


また一連の出来事を一から反芻し出していることに郁はハタと気付く。顔が熱い気がする。柴崎に感づかれないようテレビに視線を戻すが、掌にチラチラと目を遣ってしまう。
そこには自分の手しか存在しない。だが、あの時繋がっていた堂上の手の感触は郁が意図しなくともたやすく浮かび上がる。

郁より背の低い堂上の手は郁よりも一回り大きかった。少しざらついた皮膚は分厚く所々硬くなっている。積み重なる訓練と戦闘の結果だろう。

――ポケットの中で篭る体温と湿り気。

堂上の掌と上着に因って二重にくるまれた郁の手は十分過ぎる程温まっていた。少し汗ばんでいた気もする。
緊張していると思われただろうか。いや、実際に緊張していたし、心臓も跳ねっぱなしだった。
だが、それを知られるのも自ら告げるのも郁の心の準備ができていない。

――いや、準備できたら言えるってもんじゃないんだけどね。

いつか堂上に告げる日が来るのだろうか、もう一度手を繋ぐ事はあるのだろうか。

「なんだか随分浸ってるみたいだけど、一体誰を相手に双方向の意志疎通とやらを行ったのかしらねえ」
「えっいや別にっ」

柴崎の言葉で瞬時に回想から帰還した郁だったが、向かい側の柴崎ににやにやと意味ありげに笑いかけられ一気に頬が熱くなった。

「今のは特定の誰かの話とかじゃないし!一般的な話よ一般的!!」
「ふうん。一般的、ね」

――ま、聞かなくても判るけど。

それを言い出したら今の問答丸ごと柴崎には必要ない。テレビを見ているはずが郁の視線はほぼ自分の掌で、きゅきゅっと指を曲げたり伸ばしたり。誰かと手を繋いだことを思い出してるのは間違いなく、その誰かだって先だって偽装デートに出掛けた堂上、その人他ならぬワケで。

分かっていて敢えてつっこむのは大人気ないのか。傍から見てバレバレもいいとこな二人なのだからこれくらいの茶化しは可愛いもんだろう。

「一般的な話、特定の誰かじゃない、と」

にやりと笑って郁の言葉を繰り返した柴崎は明らかに気付いている風だったが、それ以上突っ込む気配がないらしい。柴崎の追求を交わす技量など持ち合わせていない事は承知なので、そのままテレビに視線を移し郁はさりげなく両手をテーブルの下に隠した。



のんびりテレビを見る余裕などなくなる怒涛の出来事が起こったのち、郁の自問自答に答えが出されるのはそれほど先の話ではない。

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終わりです。