二つ名

*柴+郁(別冊2エピローグ前)

ランチにて。短いです。



「ねぇ茨城県産純粋培養熊殺し乙女ブラッディ笠原?」
「何だその嫌味たっぷりの長ったらしい二つ名は」
「あたし、結婚するの」




「……おめでとう」

もはや二つどころではなくふんだんに盛り込まれた痛い呼称などは吹っ飛んだらしい。表に出るかと盛大にしかめた郁の顔はみるみる頬が緩み、中心からパアッと光が広がるように表情が綻んでゆく。
その落差は日本最大級ジェットコースターも顔負けだ。

――考えた甲斐があったわ。

手塚には悪いけど寮までの帰り道、ずっと考えていたのは郁にどうやって打ち明けるかだった。
いつもの何でもないデートの何でもない会話の中でぽろっと結婚の話を零してみせた時はさしもの手塚も驚いていたが、帰り際には「今度、指輪見に行こう」と言ってくれた。
それまで郁には隠しておいて、いきなり指輪を見せてびっくりさせる、と言うのも考えたが、それまで黙っていられそうになかった。

誰かに言いたかった。
郁に聞いて欲しかった。

自分の選んだ人と、自分を選んでくれた人と、一生共に生きていく。
この喜びを世界中に触れて回りたい、なんてドラマチックな感傷は持たないけど。でも誰かに言わないと、業務中ふと零れてしまいそうだった。
そんなの柴崎麻子としては有り得ない所業で。

打ち明けるとしたらそんなの一人しか思い当たらない。



「おめでとう……しばさ、ぎぃ」

最後の方は声がかすれて言葉になっていない。
昼休み中ランチに繰り出した基地近くのカフェで号泣されるのは少し困る。

「式ではこのあたしのあまりの美しさにせいぜい慄くことね」

極上のスマイルを見せ付けてやると、郁はまだかすれた声で「楽しみにしてる」と泣き笑いの顔をくしゃくしゃにした。



終わりです。